パタンッと背後の扉が閉まる音を聞いて、光はコクンと喉を鳴らした。

窓辺のソファにドサリと腰掛けた同室者を意識しつつ、袂に隠しておいた眼鏡と鬘を、テーブルに出す。

仁志を待つ間、どうにか枝から外した鬘は、すでに壊れて使い物にならなかった。

過度な力が加わったのか、おかしな形に変形してしまっている。

念のためにスペアを持って来ていたから、明日の心配はいらない。

光が集中すべきことは、たった一つだ。

深呼吸をして、頭から被ったタオルを外した。

「ヅラが壊れたから、俺を呼んだってわけか。人に見られたら、不味いんだろ」
「うん……」

口火を切ったのは、仁志だった。

外で話すことではないと、部屋まで戻ろうと提案したのも彼だ。

気が昂ぶっていた光も、どうにか冷静を取り戻すことに成功した。

だから尚更、現状を深く実感してしまう。

これまで何度もイメージして来たが、直面すれば緊張は想像の比ではない。

受け入れられなくても構わない。

ただ、自分のために仁志にすべてを打ち明ける。

そう決めた覚悟など、気を抜けば簡単に崩れ去りそうだ。

震える膝を叱咤して、直立したままこちらを射抜く鋭い双眸を見つめ返した。

「俺は……」
「ちょっと待て、お前の話の前に一つだけ確認させろ」
「なに?」

語りだそうとした途端、中断されてしまい出鼻を挫かれる。

全身の力が抜けかけるのを感じながら、質問を促した。

「お前、キザキだよな」
「っ……」

ハッと息を呑むのが分かったのだろう。

仁志の伺う表情が、確固としたものに変わった。

まさか、彼がそこまで気付いているとは思いもしなかった。

キザキとしての容姿は、光は勿論のこと本来の姿ともかけ離れている。

顔の造作は同じだから、今の自分を見て思い当たったのかもしれないけれど、それにしては仁志の口調は断定的で違和感を覚える。

これまで追求された際に言われたのは、「どこかで会ったことはないか」と「何者だ」。

彼の口から「キザキ」のキーワードが出されるとは。

一体、仁志はどこまで気付いているのか。

思わず探りかけて、慌てて調査員の考えを打ち消した。

「そうだよ。仁志が「アキ」として顔を出していたグループの、「キザキ」も俺だ」
「分かった……」

けれど、噛み締めるような返事を聞いて、随分と前から光とキザキが同一人物であると推察していたのではないかと思う。




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