真実。
SIDE:仁志
一人で平気だと言う渡井に、それ以上構うことも出来ずホテルの個室へと戻って来た仁志は、無人の空間に青褪めた。
オートロックの部屋を考えれば、光はいつもの如く誰かに連れ去られたわけでないことは容易に知れる。
自らの意思で姿を消されたのだと理解した瞬間、近い過去がフラッシュバックした。
霜月の手から救出された翌日、訪ねた自分が見たのは人の気配のない、光の自室。
まさか、またなのか。
よく似た状況に知らず背筋が慄きつつも、すぐに光の携帯に連絡を試みた。
電源が落されていないことで、僅かに不安は解消されたが誰も出ない。
探しに行くべきかと、急いで私服に着替えた。
子供ではないのだから、少しいなくなったくらいで、騒ぎ立てるのはおかしいと分かっている。
それでも光の立場やこれまでの経緯を振り返ると、じっとしてなどいられない。
後手に回った結果、仁志にとっていいことが起こった試など一度としてないのだ。
支度をして再び部屋を出ようとした仁志は、ジーンズの後ろポケットに入れた携帯が着信を告げたことによって動きを止めた。
表示された名前を見て、すぐに通話ボタンを押す。
「光か?」
『……』
「光?おい、どうしたっ。光!」
相手の沈黙に、治まっていたいたはずの不安が反応する。
やはり何かがあったのか。
耳に当てた小さな機械を持つ手に力が入る。
『なんでもない、大丈夫』
「ビビらすなよ……。お前いまどこにいんだ?」
どこか淡々とした調子で話す光に違和感を覚えながらも、まともな返答が寄越されて脱力しかけた。
聞けば、ホテル近くにある橋の下にいるとのこと。
何だってそんな場所にと思いつつ、話の続きに耳を傾けた。
『悪いんだけど、大き目のタオル持って迎えに来てくれないか。ちょっと、トラブルっていうか、アクシデントがあって』
要求の意図が分からない。
首を捻りかけて、川にでも落ちたのかと仮定する。
そこで待っていろと言ってタオル片手にホテルを後にした。
行って光に会えば、このタオルの理由も分かるだろうと、そう考えながら。
散策コース入り口にある案内板で、転校生がいるだろう大方の位置の見当をつけ、九時を回った夜の中を進んだ。
短い木造橋を回り込むと川を挟むように土手があり、言われた通りに急斜面を慎重に降りる。
スニーカーの足なら、何の苦もなく砂利が敷かれた岩場に降り立てた。
さて、当の呼び出し人はどこかと首を廻らせて、仁志は橋の真下に人影があるのを見つけた。
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