大小様々な石が、ぬかるんだ土に転がっていて非常に降りにくい。

背の低い木が細い枝を長く伸ばしていて、腕や足を引っ掛ける。

橋の上から確認した方を見れば、すでにディスプレイは点灯を終えていて、よく見えない。

悪条件で慣れない下駄は不味かった。

「っ!」

何かに履物が躓いて、光の体はあっという間にバランスを崩した。

咄嗟に顔の前で腕を交差させたのは正解だ。

転がる体に先ほどのタックルとは比較にならない、鈍い痛みが強襲する。

何故か、頭の方で嫌な音。

バシャッと左足が冷たい。

ようやく止まったときには、砂利の上に身を投げ出していた。

「いって……」

呟きつつ、身を起こした。

ひとしきり体の動きを確認して、骨折がないと判断。

鈍痛くらいなら我慢できると言い聞かせ、当初の目的である携帯電話を見つけた。

今度は仁志からの着信が一件と、表示されている。

橋から見たときに光っていたのは、電話がかかっていたせいか。

履歴から番号を呼び出しかけ直す。

コール音を聞きながら、光は頭についた土を払おうと手を伸ばし、触れた感触の柔らかさにぎょっとした。

「え……」

まさかと見張った目は、その「まさか」が現実である証拠を捉えた。

通話が、繋がる。

『光か?』
「……」
『光?おい、どうしたっ。光!』
「なんでもない、大丈夫」
『ビビらすなよ……。お前いまどこにいんだ?』
「ホテルの近くの、橋下の川」
『はぁ?なんでんなとこ……』
「悪いんだけど、大き目のタオル持って迎えに来てくれないか。ちょっと、トラブルっていうか、アクシデントがあって」

何言ってんだ?と訝る仁志に、どうにか頼み込んだ。

「そこで待ってろ」と締めくくって電話を切ろうとする彼に、光は慌てて言った。

「下駄じゃなくて、歩きやすい格好で来てくれ」

電話中、片時も離れなかった光の視線の先には、木の枝に絡まり引っかかっている、黒い鬘があった。




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