空いている大浴場は心惹かれるが、変装している身としては部屋風呂を使うのが当然の選択である。

取りとめもないことを考えるのは、間もなく訪れる告白のときを意識しないためだった。

それでも浴衣姿で脱衣所から出た光は、部屋に誰の姿もないと分かると、ほっと胸を撫で下ろしてしまったのだけれど。

冷水で喉を潤し、仁志が戻ってくるのを待つ。

耳障りな鼓動を意識から弾き出し、窓辺のソファに座って膝を抱える。

だが、いくら待ってもドアが開く音がしない。

気になって時計を見れば、彼が出てからもうそろそろ二時間が経つ。

何をやっているのか。

本調子でないときに長風呂はよくないと考え、ハッとした。

敢えて、部屋に戻って来ないのでは。

先ほどのやり取りに落ち込んで、もう暫く帰って来ない可能性は容易に想像できた。

あの時、自分が言葉に詰まったせいで、余計な心苦しさを与えてしまったのかもしれない。

ここで緊張しながら待っていては、身が持ちそうになかった。

「少し、散歩でもするかな」

真実を明かすときに面倒だと、コンタクトは入れていなかったが鬘と眼鏡はかけている。

光は館内履きのスリッパから、外出用の下駄に履き替えると、携帯電話とルームキーだけを持って部屋を後にした。




- 412 -



[*←] | [→#]
[back][bkm]



第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -