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それらを見送り、呆気に取られる。
これほど簡単な嫌がらせは初めてだ。
転校して来てから何度も嫌がらせの被害にあってきた光だが、今の制裁ほど可愛いものはない。
殴られもしなければ監禁もされない、ましてや組み敷かれることだってなかった。
突然ジュースをぶちまけられて、罵られただけだ。
今更、この程度のことで何を思うはずがあろうか。
足元を見ればサイダーの缶が転がっている。
「捨ててくなよな」
無色であったことにほっとしつつ、ゴミを拾うため屈んだ。
まさかこれ以上何かが起こるなど、思いもしなかったのだ。
「え?」
「使えっ!」
「は?」
バサッと頭から被せられた何か。
そうして乱暴に言われた聞き慣れぬ声。
取って見ればスポーツタオルで、目を丸くする。
急いで周囲を見回すも、今度は誰の姿も見つからない。
次から次へと、何だ一体。
思考がついて行かず、優秀な回路もフリーズ気味だ。
使えということは、サイダーで濡れた光への心遣いなのだろう。
どうしたものかと思案するも、ポケットの中のハンカチより、タオルの方が役に立つことは明白。
「じゃ、遠慮なく。すいません」
聞く者はいないと知りつつ、礼を述べて有難くタオルを使わせてもらった。
柔らかな生地には、爽やかなフレグランスが香っていた。
まったく、何て騒がしい修学旅行だろう。
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