「こんにちは……。顔合わすのって、初めてだよな」
「そうだな。でも、長谷川は有名人だろ?」
「残念なことに」

引きつった笑みを浮かべたら、野家と呼ばれた生徒はくすりと笑った。

「大丈夫だ。これ以上悪くなることはないよ」
「それって、俺がどん底まで嫌われてるってことだよな」
「ははっ」

笑って誤魔化されたが、彼の言う通りなのは承知している。

中々いい性格の持ち主だ。

「野家が気に入るって、珍しいな」
「そうでもないですよ」
「ねぇ、俺は放置ですかスルーですか?アキー、ちょっと冷たいだろそれは」
「お前らどっから来たんだ」
「美術館にいたんですけど、人が多すぎてこっちに来たんです」
「イジけますよ、俺?いいんですか?イジけますけどいいんですか?」

仁志と野家の徹底した無視に我慢できなくなったのか、渡井はガバッと仁志に抱きついた。

「ちょっ、離れろてめぇ!気色わりぃんだよっ」
「アキが無視するからでしょ。アキ繋がりで仲良くしようって言ったの忘れた?」
「うぜぇっ。てめぇが来たせいで五月蝿くなったじゃねぇかっ!」
「視覚的に五月蝿いの渡井だけど、実際にウルサイのは仁志だぞ」

形勢逆転に暴れる不良に、光は的確なツッコミを入れるも、どうやら聞こえていないらしい。

毎度のことなのか、野家は渡井を置いて見学に行ってしまった。

「もしや照れてる?分かる分かる、人気ホストに抱きつかれれば、誰でも心拍数は上がりますから」
「勘違いもいい加減にしろやてめぇコラ!一発殴らせろっ」
「商売道具なのでダメ」

あっさりと身を離したものの、仁志の怒りは収まらないのか、逃げる渡井を全力で追いかけている。

「捕まえてごらんなさい、ダーリン」
「殺すっ!」

楽しそうに笑うホストに対し、書記は鬼の形相だ。

こうやって遊ばれるのが分かっていたからこそ、仁志は無視を決め込んでいたのかもしれない。

神聖な雰囲気をぶち壊す二人は、あっという間に見えなくなった。

嵐が去った後に、息を吐いた。

ひと段落すれば戻ってくるだろう。

この辺りをもう一度見て回ろうか。

そう考えて、取り残された光が一歩を踏み出したとき、それは起こった。

「わっ!」

勢いよく横顔にぶちまけられた水に、反射的に目を瞑った。

鼻腔につく甘い香りと肌を刺激する感覚に、これは炭酸飲料かと漠然と察する。

「お前が悪いんだっ」
「さっさと消えろヲタクっ!」
「ぜんぶお前のせいでっ……!」

投げつけられた罵声の後は、バタバタと走り去っていく足音が聞こえた。

目を開き音の方向を確認すると、小柄な背中が幾つか逃げていくのが分かった。




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