張り付きそうな喉から出した告白にも、保護者が驚いた様子はまったくなかった。

まるで最初から何を言われるのかを、予想していたかの如く、表情は愚か纏う雰囲気にすら変化は見当たらない。

光同様に笑みを消し、ただこちらの次を待っている。

木崎の目を真っ直ぐに見つめれば、そこに自分の真剣な姿があるのだろう。

ドクン、ドクン。

早くもない鼓動は、代わりに一拍一拍がやけに強く打ち鳴らされて、心臓から血が送られている事実をリアルに教えてくる。

こめかみの辺りに熱を感じ、眩暈さえ起こしそうだ。

光は歌音の教えを守るため、一度だけ大きく深呼吸をした。

「六月からこれまで、俺はずっと仁志の傍にいた。前回の調査先にいたから、怪しいと思って疑って来た」
「……」

木崎はやはり黙っている。

見慣れた彼の顔が、調査員としてのものであることは分かっていた。

落ち着いて、こちらも調査員としての報告をしなければ。

「けど、彼に怪しい素振りは一切見受けられなかった。考えていることが全部顔に出る性格と、真っ直ぐで真面目な気質は売人に向いていない」
「ドラッグの売買に、確かに得手不得手はある。だが、問題は適性じゃなく実際に売買を行っているか否かだ。それに、あいつは生徒会役員だろう。今学期みたいに行事が多ければ、四六時中見張っていることなんか出来なかったはずだ」

開かれた木崎の口は、淡々と正論を並べた。

現実問題、手際の悪い売人などザラにいる。

日々捕まっているのがその手の輩だ。

常から多忙を極める仁志の傍に、一般生徒の光が張り付いていられないのも間違っていない。

だが、この数ヶ月の内に光は学院の仕組みや特性を、肌で感じて理解していた。

「だからだよ。この学院で生徒会役員は敬愛対象だ。仁志なら書記方の他に親衛隊もいるし、そうじゃない生徒からの人気も高い。それなのに、生徒の間に入ってドラッグを捌くのは不可能だ。注目を浴びている人間がドラッグ売買なんてしていれば、直接的でなくても何かしら噂は立つはずだし、顔を合わせない方法で取引するにしても、忙しい仁志にそんな時間的余裕はない」

ドラッグには大きく分けて、二通りの取引方法がある。

一つは売り手と買い手が顔を合わせるもの、もう一つは顔を合わせないものだ。

顔を合わせるものなら、例えば気のない素振りで接触し、何か場に馴染むものに紛れさせて取引をする。

学院で言うならば、ノート類に挟んだりすればいい。

顔を合わせないものは、予め当事者間で決めておいた特定の場所に、ドラッグを隠しておき、時間を置いて買い手が薬を取って代金を置いて行く。

また時間を置いてやって来た売り手が、代金を回収していく寸法だ。

しかしこのどちらも、仁志を取り巻く環境を鑑みれば不可能なのだ。

生徒会役員の人気は凄まじいものがある。

少し姿を見ただけでも噂になるほど耳目を集める存在ならば、例え人気の寂しい場所であっても居所は知られてしまうだろう。




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