素早く奥から現れた黒服に、仁志は光を目で指す。

「転校生の長谷川 光だ。カードを」
「伺っております。こちらが、長谷川様のカードになります。カードの説明を……」
「いい、俺がしとくから。ありがとな」
「恐れ入ります」

当人そっちのけで会話を進めた友人は、黒服から渡された銀色のカードを見て、またしてもオーバーリアクション。

「うわっ!!なに、お前頭いいのかよっ!?あ、いや、そのビジュアルじゃぁ納得出来るけどよ」
「スイマセン、さっきから話が見えないんですけど」

さっさとエレベーターに乗り込みやがった男を軽く睨めば、仁志が「そうだった」と零す。

「うちの学院では、このカードがなきゃ部屋には入れねぇし、飯も食えねぇ。最悪、外出も無理だ」
「全部に必要ってこと?」
「あぁ。手続きさえすれば紛失しても、再発行してもらえるが、その間は今言った機能の一個も使用できねぇから、気をつけろよ」
「なんつー代物を……」

銀色のカードを見てから、彼は4階を押す。

エレベーター特有の、上から圧迫されるような感覚。

「でだ。カードの色は全部で三種類あって、一般の生徒はブルー。俺やさっきのバ会長みたいな生徒会役員はゴールド。で、各クラスの成績優秀者がシルバーなんだ。お前のカードはシルバーだろ?つまり、光が見た目通りの学力を保持している証拠なわけ」
「……今さ、軽く俺のこと馬鹿にしたよな?」
「うおっ!気付くとは中々やるなっ!!」
「……仁志、ウルサイ」

声の大きさもそうだが、動きが五月蝿い。

仁志は軽く舌を打っただけで、エレベーターの扉が開くと、カードを返して来た。

部屋番号を覚えたのか、慣れた足取りで先を行く。

真紅の絨毯が敷き詰められた廊下は、二人分の足音を吸い込んで、ただでさえ学校が終わる前。

静かな寮内に、落ち着いた静けさを保たせている。

「ここだな。ほら、ここにカード差し込め」
「うん」

しばらく歩けば『41A1』の文字を扉に付けた部屋前に到達した。

ネームプレートには、すでに自分の名前が入っている。

言われた通りスロットにカードを差し込むと、赤く点っていたランプが緑に変わり、開錠を教えてくれた。

ドアノブを回し、これから暫く生活を送る空間へと踏み入る。

「うわっ……広い」
「成績優秀者や生徒会役員は、一般生徒と違って一人部屋なんだ」

玄関を過ぎればリビングダイニングが広がっていた。

モノクロの家具で統一され、座り心地のよさそうなソファや、ガラスのローテーブルもセンスが良い。

対面式の簡易キッチンも備えられ、奥には更に二つ扉が見える。

入り口付近にあった扉が、トイレとバスルームだったから、きっと向こうは寝室なのだろう。

どちらも開けてみれば、もう一方には学習用のデスクが置かれていた。

「一人でこのスペースって、かなり無駄だ」
「俺らんとこの方が広いぞ」
「生徒会の特別待遇って、反感買わないわけ?」

勝手にソファに腰を下ろした仁志は、袋から早速購入したパンや弁当を取り出している。




- 32 -



[*←] | [→#]
[back][bkm]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -