不可思議な忠告。
目覚ましの叫びも使わずに、少年はぱちりっと目を開いた。
見慣れた自室の天井を視界に映し、しばらくの間ぼんやりとする。
「よく寝た……」
寝起きの少し、掠れた声。
これほど深い眠りを堪能したのは、久しぶりだ。
昨夜、歌音が帰ってからの光は、穏やかな心持で布団に潜り込むことが出来た。
強張りの解けた体に柔らかなスプリングが心地よくて、目蓋が重くなるまではすぐのこと。
カーテンの隙間から差し込む日差しに目を細め、ベッドから降りて伸びをする。
軽やかな気分は、心身共に疲れを癒した証拠だ。
やはり歌音はすごい。
悩み事をするりと言ってしまいたくなる雰囲気に、何かしらを訓えてくれる言葉。
彼もまた解放されたのだと思うと、光の口角は自然と持ち上がった。
身支度を整えつつ、シーツに投げたままだった携帯電話を開いた。
アラームが鳴る前に起きたから、設定を止めておこうとしたのだ。
「え?」
コンタクトを入れた瞳を、限界まで見開いた。
画面に表示された数字に、血の気がサァッと引く。
「10:25」とは何だろう。
考えるまでもない。
「寝坊、した?」
信じられぬ思いから疑問符をつけてしまうが、結果は嫌というほど理解している。
寝坊などほとんど経験がないから、目覚ましのスヌーズ機能もオフにしていた。
年に一度あるかないかの珍事だ。
この時間ならば二時間目が終るころ。
今更急ぐ気にもなれず、光はキッチンの冷蔵庫を開いた。
帰省したときに木崎に言われてから、寮でもなるべく料理をするようにしている。
食堂に行くことがほとんどでも、時間がある朝は朝食くらいなら作っていた。
卵を焼いて、トーストとアイスティーを準備。
ウィンナーは茹でた方が好きだけれど、少しだけだからフライパンに転がした。
簡単な食事を腹に収め、学院へと向かったのは十一時を少し過ぎてからである。
「なんか最近、授業サボってばっかりだな」
転校初日で真面目説は崩れたが、二学期に入ってからもう四時間分サボっている。
進級に影響が出ないかと心配しかけて、苦笑した。
いつまでここにいるつもだ。
叶うなら年度内に調査を終えてしまいたいのに。
そうなれば、「光」は学院からもこの世からもいなくなる。
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