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こちらが何事かを言う前に、武が素早くオーダーをした。
「オムライスのセットを二つと、雑穀雑炊を一つお願いします」
「てめぇ、なに勝手に注文してんだよっ!」
「あ、それでいいですから。大丈夫です」
「光!お前こいつとグルかっ」
「仁志、ウルサイ」
喚く仁志に一刀両断。
武が笑顔で口を塞ぐから、彼は文句を唱えることも出来ない。
困惑するウェイターに武と共に笑顔を向けると、相手は厨房へとオーダーを告げに戻って行った。
流石、碌鳴の食堂だ、素晴らしい空気の読み方である。
「仁志に消化のいいものを食べさせるという点で、俺と武先生はグルと言える」
「お友達の心遣いですね」
「っぷは。てめぇら、マジでいい根性してんな」
鋭く睨み付けたものの、平然としているこちら二人に、仁志は脱力するしかなかったようだ。
揚げ物メインのランチBなんて、今の彼に食べさせるわけには行かない。
彼も自分の体調が本調子でないことは自覚しているのか、それ以上文句を垂れることもなかった。
その内、制服のポケットに入れていた携帯電話が着信音を奏でた。
黒電話のコール音とは、中々渋い。
「悪い、来たら先に食ってろ」
「分かった」
席を立って食堂を出て行く仁志の背中を見送る。
視界から完全に見えなくなってから、光は横目で武を見やった。
「いいのかよ?俺に直接会っても」
「保健医の顔してただろ?問題ない」
「仁志に外面作ってるってバレてんじゃん」
「あいつ勘が鋭いんだよ。それより、お前から預かったリストの生徒、写真手に入ったぞ」
テーブルの下から渡されたUSBメモリを、素早くしまう。
穂積から貰った要注意人物のリストは、武に渡してある。
二年ならばどうにか自分一人で調べられるが、他学年は厳しいため彼に頼んでおいたのだ。
顔が分からないこれまでよりも、格段に調査がしやすくなった。
保健医というポジションを利用して、生徒の個人情報は然程労せず入手できたと、武は笑った。
「保健室に来たやつもチェックしているが、まだヒットはない。お前はどうだ」
「リストの生徒で何人か服用者はいたけど、みんな会長方なんだ。たぶん霜月から流れて来たんだと思う。売人の線は薄いよ。リストとは別に、ちょっと気になる相手はいたけど」
「……誰だ」
「化学の須藤 恵。2−B、俺のクラスの担任」
「あぁ、あいつか」
考える間もなく、武の頭には須藤が思い浮かんだらしい。
顔を会わせる機会でもあったのだろうか。
「お前の担任なら、こっち来て最初に顔見に行ったからな。無害そうな顔で毒出しすぎだな、あいつは」
間垣からの情報では、売人は生徒だという話。
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