後の祭りは生徒寮で。
やってしまった。
やってしまった。
やってしま……
「しつけぇよ、光」
「あ、声に出してた?」
「いんや、表情がうるせぇ」
横暴ではないだろうか。
穂積が出て行った後、騒然となった食堂に居続けるわけにも行かず、二人は散らかすだけ散らかした現場を離れることにした。
鬘の水分は、量が少なかったのが幸いだったようで、自然に乾いてしまった。
向った先は校舎の外。
隣接する生徒寮である。
校舎同様、あえて時代を感じさせる様式を選んでいるのか、概観は貴族の屋敷を思わせるものだが、内部は近代的で生徒たちに不便がないようにと、充実していた。
一階にある碌鳴印のコンビニで食事を購入している間中、光の脳内は『後悔』の二文字で一杯だった。
地味で目立たない、勉強だけが心の拠り所と言った生徒を演じようと考えていたのに、どうしてあんなことを仕出かしたのか。
ドラッグは日々の精神的ストレスに疲れた若者に売られるケースも多く、売人が接触しやすいようなキャラクターをこなすのも、捜査の一つ。
穂積が登場したときの歓声は仁志を凌ぐほどで、彼が生徒からとてつもない人気を得ているのだと察せられる。
そんな人気者にたてつく根暗が、何処の世界にいると言うのか。
恐ろしいことに、あんな人格破綻者が会長を勤めている碌鳴で、自分はすっかり攻撃対象。
飛び交う光への悪口も、今朝より飛躍的に悪質かつ増加した。
これでは捜査など出来ない。
悪目立ちして己の首を絞めた自分は、最低だ。
「キレなきゃよかった……」
「今更遅ぇよ。決まったか?」
「分かってるけど…。うん、これ」
「あ、これマズイぞ。こっちにしろ、こっち」
光の選んだアボカドといくらお握りを却下すると、仁志は無難な種類をいくつかカゴに放り、そのままレジへ。
「いや、なんか面白そうで……って、会計別々に」
「お前まだカード貰ってねぇだろ。今日は奢るから」
「カード?」
仁志は財布から金色のカードを取り出すと、世間で使われる電子マネーのように、指定の場所にかざす。
二人でどれだけ食べるんだ、という大きなビニール袋を持って歩き出す友人の後につきながら、光は尋ねた。
「なにそれ、sui……」
「違ぇよ」
「じゃあ、nana……」
「”こ”でもねぇから。これは、この学校の中で言うクレジットカード兼ルームキーだ。ほら、受付だ」
ホテルのカウンターのような場所につくと、彼は置かれていた銀のベルを押した。
チリンッと涼しい音が鳴る。
「お待たせいたしました。いかがなさいましたか?」
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