思った通り、彼は引きずっていたのだ。

七月中、故意に光を避けて一人にさせたことを、今でも後悔している。

会長方の策謀に陥って、体育倉庫に監禁されてしまったこともあって、忘れることが出来ないのだろう。

調査に入っている光と、違和感に気付いた仁志。

あれは仕方のないことだった。

真実を口にする覚悟も決めていなかったから、仁志にすべてを話すわけにはいかなかったし、仁志が隠し事をしている人間を避けてしまう気持ちも分かる。

自分を責める必要など少しもない。

「気にするな」と言えば、余計に気にしてしまう性質だと分かっていたから、光は聞こえないふりに徹した。

「仁志さ、お昼一緒に食べれんの?」
「ん、あぁ。休憩もらって来たからな」
「だったら教室戻らないで食堂行かない」

二人ともクラスに寄る必要はないのだし、込む前に食堂に入っておくのも悪くない。

「お前、もっと早く言えよ」
「仁志だって気付かなかっただろ」
「俺はいいんだよ。何食うかな」
「消化にいいものにすれば?仁志、寝不足だろ。体弱ってんだから、変なもの注文するなよ」

生徒会書記の目の下には、はっきりと隈が出来ている。

まったくどれだけ忙しいのやら。

穂積にも言ったが、自分には絶対に真似できないと、しみじみ思う。

来た道を戻り食堂に着けば、案の定生徒の姿はほとんどなかった。

ウェイターの案内を断って、適当なテーブルにつきメニューを見る。

「ランチBにすっか」
「消化にいいものにしろって言ってんのに……」
「それならうどんや雑炊がいいですよ」

第三者のアドバイスに、光と仁志はハッと顔を上げた。

「こんにちは、まだ授業中ですよ」

にっこりと微笑んだ相手を見て、仁志の顔がこれ見よがしに不機嫌になる。

暫時固まった光にさり気なく目で合図を送って来たのは、新任保健医の武。

木崎だ。

「……こんにちは、武先生」
「おっさん、まだその口調やめてねぇのかよ」
「だから、おっさんと呼ばれる年じゃありません。ここ、座っても?」
「勝手にしろ」

口調も表情も乱暴なのに、仁志は武の同席を許可した。

光の隣に座った保健医は、対面の生徒会役員を見て眉を寄せた。

「仁志くん、随分お疲れのようですね。長谷川くんの言うように、今は消化にいいものを選んだ方が無難です」
「うるせぇな。で、光はどうすんだよ」
「え、あぁ、俺?俺はじゃあオムライスのセット……。先生はどうします?」
「もう決めましたから、カードを通しましょうか」

仁志、光、そして武の教員用のカードを通すと、間もなくウェイターが注文を取りに来た。




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