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それから彼の怒りの理由に訝しげな顔をになった。
「穂積」本家とは、恐らく彼の実家を指すのだろう。
実家からかかってきた電話に、あれほど声を荒げるとは何事だ。
彼の口にした「穂積」の自覚というのも、今ひとつ要領を得ない。
眼鏡と前髪に隠された、光の表情を敏感に察した男はぎょっとしたらしい。
まさかといった顔で少年を凝視した。
「お前、俺の家について知らないのか?」
「興味なかったから……。え、まずかった?」
「いや、そんなことはないが……。そうか、知らないのか」
学院内で蔓延しているドラッグについて、調査をしている光にとって重要なのは、生徒たちの碌鳴における立場や権力だ。
光がピックアップした怪しい生徒の報告を受け、木崎が家柄やバックグラウンドを調べることになっている。
社会的な立ち位置が、学院でのポジションにも密接に関わっているシステムから、生徒会役員は別格の家柄だと気付いていたが、その仔細までは知らなかった。
穂積の驚きようを目の当たりにして、光はまだ学院に染まりきっていない己を自認した。
「分かっていたら、俺に醤油瓶を投げつけたりしないか」
一人呟く穂積は、何事かを納得した様子だ。
「そんなに常識的なことだったのか?」
「この学院に来ている生徒は、他人の家柄には過敏だからな。しかし、知らないならそのままでいろ。自分からしがらみに捕らわれる必要はないだろう」
「俺の家は一般家庭だよ。会長の背景を知ったところで、まったく影響ない」
隠されると余計に気になるのは、捜査官としての性だ。
相手の口を軽くするために、何気なく言った台詞。
けれど、どうしてだろう。
穂積との間にひんやりとした風が流れ込んだ錯覚に陥り、光はドキリと不安を感じた。
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