「どうだかな。毎回何かしら窮地に陥っておきながらよく言う」

鼻で笑う男に、嬉しい気持ちが台無しだ。

気持ちが浮上していた分、墜落の威力も倍増した。

「自分で撃退したこともあります」
「その後、気絶しただろう。怪我もしていたしな」
「たまたまです、偶然です。俺はそこまで弱くない」
「ゴミ虫風情が思い込みも甚だしい。助けがいるならいつでも言えばいいだろう。気が向いて、尚且つ暇を持て余していたら助けてやるかもしれないぞ」

身長差を利用して、これ見よがしに見下ろして来るオプション付。

何て性格の悪さ。

さっきの優しい気遣いは、夢か幻か。

光の持ち味は冷静さだが、低い沸点も忘れてはならない。

今まで言わずに来たけれど、我慢などするものか。

生徒に嫌われる原因を作ったのは光、しかし悪化させ泥沼へと変えたのはこの男だ。

「そもそも、会長が「潰す宣言」したのが悪いんだろっ!」

言った瞬間、穂積の長い足がピタリと止まった。

体ごとこちらに向き直られて、ぎょっとする。

しまった、言い過ぎた。

魔王降臨に違いない。

真顔で見つめて来る相手に、冷や汗が流れた。

悟られぬよう足に力を込め、逃走の準備を整える。

言い逃げで感じる恥よりも、生命維持の方がよっぽど重要だ。

けれど防衛本能を全開にした少年の前で、穂積が魔王に変貌することはなかった。

次の動きを予想できた者がいるだろうか。

完璧な角度に折られた腰、陽光を弾き艶やかに煌く黒髪が、すっと丁寧な動きで下げられたのだ。

「悪かった。食堂での一件は、俺に非がある」

謝罪。

自分の目に映る光景が信じられなくて、瞳ばかりが大きく開き身動きが取れない。

だってそうだ。

あの穂積が。

傲慢魔王の穂積が、頭を下げて「悪かった」。

ドッキリ企画か、冗談か。

あり得ない。

冗談で済ませない真摯な想いが、ダイレクトに伝わって来る。

光が動き出すまでにかかった時間は、長かったのか短かったのか。

「やめて下さい、顔を上げて下さいって。会長に謝られると、どうしていいか分かんないだろ」

見っともないのは自覚している。

強すぎる動揺に声が震えている。




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