予想外の展開に、すぐには返事も出来ない。

戸惑うのが分かったのか、もう一度彼は話しかける。

「今は授業中だろう。何をやっている」
「……サボリです」

無理やり舌を動かしたせいで、馬鹿正直に答えてしまった。

先刻とは違う意味で「不味い」と思うも、すでに遅い。

穂積は口角を持ち上げた。

「ほぉ、仮にも生徒会長の俺にサボリ宣言とはいい度胸だ。処分対象だぞ」
「私情挟みまくってる顔で言わないで下さいっ」
「なら高校生の本分をまっとうしろ。俺も碌鳴館に戻る」

言うや、歩道に戻る道を歩き出す。

抗うわけもなく、光はその真っ直ぐな背中を追った。

煉瓦畳の道に二人の靴音が響く。

流れる沈黙に居心地の悪さを感じているのは、自分だけだろうか。

木々のざわめきも、靴音も、蝉の鳴き声も、すべてが空々しく聞こえるから困った。

「忙しそうですね、最近」

闇雲に足を動かして来たせいで、校舎まではまだ距離がある。

無言に堪えるのは限界だ。

ひねり出した話題に、穂積は疲れが滲む表情で嘆息した。

「そうだな、今学期は年間で最も行事が多い。仁志を借りっぱなしで悪いな」
「え?仕事なんですから、当たり前じゃないですか」

間を持たせる話に付き合ってくれてホッとしたのも僅か、思いがけない返答が寄越された。

生徒会役員の仁志が、こなすべき責務をまっとうするの至極当然。

有する権力に見合った働きは、求められるべきものだ。

穂積ならば分かっていることだろう。

だが、彼の口は紡いだ。

「一人だろう、お前」
「え……」
「なるべく帰すようにはしているが、不便はないか?」

気遣われているのだ。

驚いて傍らの男を凝視した。

防波堤である仁志の不在によって、生徒たちから被害を被っていないかと心配してくれている。

光がクラスで話せる相手は仁志くらいだけれど、それは生徒たちに反感を買ってしまった以上、仕方のないことだし、積極的に取り入ろうともしなかった自分自身のせいでもある。

悪意の渦に叩き込んだのは別の人間であっても、今光が一人でいることに対してまで心配されるのは何だか面映い。

錯乱しかけたのも忘れ、光の胸にじわじわと心地よい熱が灯った。

「平気です。特に何かされてもいないし、俺はそんな簡単にやられませんよ」

小さな笑みを添えた口元を見られないように、さり気なく顔を背けたのだが。




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