何もかもがぐちゃぐちゃで、うるさい。

うるさい。

うるさい。

恐慌状態に陥りかけている。

冷静に分析することで、無理やり平静を呼び寄せた。

昨夜、さっぱり寝むれなかったのが、この心の不調を引き起こした。

光は携帯を取り出すと、霞む目でアラームを設定した。

熱中症にならない程度に、少し睡眠を取るべきだ。

小さな機械をポケットに戻し、倒れるようにベンチに身を横たわらせた。

寝よう。

睡眠不足は判断力を低下させると、よく知っている。

気持ちを落ち着けて、まともな思考が出来る自分に戻らなくては。

重い目蓋を閉ざし、乱れていた呼吸を落ち着ける。

やるべきことはある。

考えるべきこともある。

やりたいこともある。

考えたいこともある。

混同してはならない。

見誤ってもならない。

境界を引いて、整然と並べて、冷静に向かい合って行けばいい。

混乱だけはしてはならない。

暑さも忘れ、時折吹く風だけを感じてまどろみに落ちる。

ふと、一本の矢を思い出した。

そう言えば、判断を見誤りそうになったとき、弓をやると言っていた人がいた。

心が真っ直ぐになると、言っていた人。

背筋を伸ばし流麗な動きで矢を番え、ただ一点のみを見据えた双眸。

綺麗で真っ直ぐな、黒い眼。

「ぇ……」

唐突に意識が浮上したのは、遠くから聞こえた誰かの声のせいだった。

額にかいた汗を拭いつつ、起き上がった光は裏庭を出た。

どこだろう。

どこからか声が聞こえる。

無視できなかったのは、それが怒鳴り声に聞こえたからだ。

こういうとき、決まって遭遇するのは歌音のピンチの場面だから、余計に心配になってしまって駆け足で声の方へと進んだ。

「――っで、それが―――ふざけるな!」

一際大きな怒りの文句に、ビクッと足が竦んでしまった。

この声に、聞き覚えがある。




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