◇
植え込みで目隠しをされた小さな空間を、学院では裏庭と呼ぶ。
万一サボリを注意されても鬱陶しいと、その裏庭のベンチに居場所を定めた。
木々に陽射しが遮られ、暑さも幾分和らいでいる。
ちらほらと残った蝉の声を聞き流し、ぼんやりと中空を眺めた。
「仁志の、友達ってなんだよ……」
結局そこか、と自嘲する。
学院ホストが紡いだ、最後の一つ。
――アキの友達って感じ
生徒たちから受け入れられ出しているのも、気になっているのに。
学院での調査をしやすくするために、動きやすくなった今の状況は好機なのに。
真実心奪われた話が、調査と無関係とは情けない。
須藤をマークすると決めた。
千影として穂積からもらった、リストの生徒も注意している。
でも、精神的なバランスを崩すのは、いつだって調査以外の問題なのだ。
このままではいけない。
自分は調査員として育てられた。
調査員としてこの学院にいる。
「長谷川 光」になったのは何のためか忘れたか。
光の中で仁志の存在は、もはや見過ごせないほど確かになっている。
今更、彼との関係を放って調査に専念するのは不可能だ。
ならば一刻も早く仁志にすべてを話して、この不安と罪悪感を終らせなければ。
終らせて、ドラッグのことだけに集中しなければ。
あぁ、違う。
今考えていたのは、生徒たちの態度の変化の原因だ。
いや、駄目だ。
それよりも須藤が本当にドラッグと関係しているのなら、いくつか生じる疑問点がある。
考える優先順位は、こちらの方が高い。
待て、もっと視野を広げろ。
誰か一人に集中するから、リストの人間の確認が半分程度しか終っていないのだ。
「あー……最悪」
頭の中が、まとまらない。
脳を動かそうとするのに、まったく上手く行かない。
空回りして、暴走している。
やるべきことが溢れ出して、容量オーバー。
- 380 -
[*←] | [→#]
[back][bkm]