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「学院ホストやってる俺が、生徒会関係者なわけないって。アキは中等部のときのクラスメイトで、俺は一般生徒」
「でも親衛隊とかいうのはいるだろ」
「放任主義だから、俺が誰と交流持っても口出ししないよ。口出されたら、商売になんないしね」
確かに親衛隊が五月蝿ければ、不特定多数の人間と付き合いを持つホストなど不可能だ。
制裁と称して客をイジメられては堪らない。
自分の知るファン組織とは、まったく性質が異なるらしい。
「それよりも光ちゃんさ、二学期始まって気づいたことない?」
問われた内容はあまりに漠然としている。
渡井の意図がさっぱり読めない。
何か気付いたことはあっただろうか。
「修学旅行がもうすぐ」
「はいハズレ。もっと光ちゃんにとって重要なことかも」
なんだそれは。
光にとって重要なことだと?
咀嚼していた米粒を飲み込んで、考えを廻らせた。
すぐに出てきたのは、須藤のこと。
彼が売人かもしれない件だが、光も気付いたばかりの不審点であり、ドラッグ問題を彼が知っているはずがない。
他の二学期に起こった変化で、知っているのは新任保健医の着任くらいだが、これも違うはず。
光にとって木崎の赴任は衝撃的で大問題でも、渡井からすればただの保健医に過ぎない。
ならばなんだ。
二学期と一学期の相違点。
光に関係する、光を取り巻く相違点。
すっかり人気のなくなった食堂は、静かだった。
「あ」
「ん?」
「野次が減った」
これだ。
ようやく分かった。
校内を歩いていても、寮の食堂にやって来ても。
一学期、あれだけひどかった悪意の騒音が、二学期に入ってあまり感じられないのだ。
元から生徒会勧告が作用して、呼び出しなどこれ見よがしな制裁はイベントを除けばなかったけれど、悪口だけは凄まじかった。
刺々しい視線は時々受けるが、声高に嫌悪を示されていた先学期と比べるまでもなく、生徒たちは大人しい。
明らかな変化だ。
「大正解。ご褒美に海老を贈呈しましょう」
「海老はいらないから、詳しい説明が欲しい。渡井、情報通だろ?」
「……鋭いね、光ちゃん」
ピラフの海老を辞退した光の目に、渡井がどこか嬉しそうに笑う。
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