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「学院、ホスト?」
「ホストって言っても、やましいことはしてないよ?光ちゃんからお金取る気もないから安心して。請求は全部アキにする予定だからさ」
「アキ?って、仁志のことか」
「そっ。同じアキ同士だから、俺が一方的に懐いてんの」
いつも苗字で呼んでいるせいで、名前を思い出すのに時間がかかった。
もしや仁志のファンでは?と警戒を強めた矢先、絶妙なタイミングで渡井は言った。
「今は心配ないって言ったんだけどね、俺は。アキのやつどうも光ちゃんが心配らしくて、お願いされちゃった」
アキって友達思いだよなー、と笑顔で言いつつ自分の海老ピラフを食べ始める。
どうやら、一人でいることの多い光を心配して、仁志が「学院ホスト」とやらをしている彼に、自分の様子を見て欲しいと頼んだようだ。
七月の間、故意に離れていたのを引きずっているのかもしれない。
過保護だと文句は言えなかった。
先ほどからまったく消えない笑顔は気になるが、悪意は感じられなくて、光は緊張と共に呼気を逃がした。
「俺の傍に来て平気なのか?」
「ん?」
「自分で言うのも何だけど、俺といると危険かもしれない」
「へー……」
スプーンを止め、渡井の瞳が上目で少年を見やった。
満開だった笑顔が収束し、口角をにまっと持ち上げる。
なるほど、あの笑顔は営業用だったのか。
「なんだよ」
「いえいえ、アキに金請求すんのよそうと思って」
「はい?」
「突然現れた俺に言う言葉が、心配してくれる台詞っていうのは、嬉しいでしょ」
自分自身が嘘ばかりのため、他人の嘘には敏感だ。
頬を緩ませた渡井は、偽りの気配もなく心から言っている。
「もともと時期外れの転校生と話してみたかったんだ、変な噂ばっかりだったから気になっちゃって。いい意味で噂が間違ってたね。俺、光ちゃんのこと好きだわ」
面と向かって好意を示され、脱力した。
流石、学院ホスト。
「好き」という言葉を出し惜しみしない。
免疫のないこちらとしては、恥ずかしがるよりも気合が抜ける。
突然の出現に身構えていた自分が馬鹿みたいだ。
渡井に釣られて、止まっていた箸を動かし始めた。
「心配しなくても平気平気。俺、立ち回り悪くないからさ」
「なんか今ので分かった。そうなると、俺の方が大丈夫か心配なんだけど」
「なんで?」
「渡井って明らかに人気あるだろ。もしかして生徒会関係者?」
光の中では、外見優等生はみな生徒会関係者だ。
仁志との交流があるのなら、尚更。
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