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一度抱いた疑念は、たちまち威力を強めた。
出来ることなら須藤には近付きたくないが、調査のためなら我慢するだけだ。
須藤 恵に注意を払っておく必要がある。
「けどなぁ……」
思わず声に出してしまった。
担任教師を調査対象に加えると決めたのは日中の内で、実のところ先ほどから光の箸が進まないのは、別の理由だった。
以前は感じたことのなかった悪寒を、今になって察知したのが気になって仕方ない。
朝と夕方、HRで毎日二回は顔を見る相手なのだから、もっと前に嫌なものを感じ取っていてもいいはずだ。
それに潜入前に与えられた間垣の情報では、売人は生徒ではなかったか。
二十半ばの彼は成人男性ではあっても、白いブレザーを着られる十代ではない。
まさか光のように、生徒に変装してドラッグを捌いていたわけじゃあるまいし。
「駄目だ……分からない」
「なーにが?」
項垂れた頭の上に落ちてきた声は、聞いたことのない音色だった。
滑らかで心地よい、明るい声。
「ここ、座ってもいい?」
「……あ、俺?」
周囲をきょろきょろと見回せば、いつの間にか埋まっていた食堂内のテーブルは、空席ばかりになっていて光の周りには誰もいない。
よもや自分に話しかけて来る人間がいるとは思わず、十分過ぎる間をあけて相手を見上げた。
第一印象は、生徒会関係者か?
人好きのする笑みを浮かべた顔は、美形ばかりの学院の中でも注目されそうなほど、甘く整っているのだから、抱くべくして抱いた印象だ。
軽く外に跳ねたアプリコットブラウンの明るい髪が、造作だけみれば近寄りづらくもなる顔立ちに、笑顔と合わせて親しみを演出している。
光よりも背は高いだろうに、四肢がスラリと長いからバランスがいい。
生徒会と言う名の碌鳴美形集団と並んでも、見劣りしないだろう。
「そ。ダメ?」
「いえ、駄目じゃないけど……」
「では失礼して。あれ、ぜんぜん食べてないね。ここの海鮮うまくない?」
「……」
これまで様々な人間と出会って来たが、この手のタイプは学院では初めてで光は反応に困った。
初対面で「ゴミ」呼ばわりした穂積とは正反対に、やけに気さくでフレンドリー。
向かいの席に座った見知らぬ男は、綺麗な二重の瞳で真っ直ぐに光を見た。
「噂の光ちゃんでしょ?俺、B組の渡井 明帆。学院ホストやってまーす」
噂とはなんだ、などと思うほど鈍くはないので聞き流すも、渡井と名乗った生徒の自己紹介に疑問符が湧く。
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