類は友を呼ぶ。
SIDE:木崎
木崎が学院への潜入を決めたのは、夏が終盤に差し掛かったところだった。
連日、穂積と共に独自の調査を行っている千影の目を盗んで、学院側に提出する書類などを作成し、各方面への根回しもした。
最後にマトリ時代の後輩をパシリに使って、変装道具を用意させれば準備万端。
以前見たときと変わらず、無駄に広く豪奢な高校に足を踏み入れたのだが。
「おい、おっさん」
「……まだ何か?」
光の後姿を見送っていた少年は、くるりとこちらを振り向いた。
仁志 秋吉。
前々から怪しいと報告を受けていた少年は、碌鳴ではあまり見ない金髪頭に着崩した制服が特徴的で、聞いた通りビジュアルだけ見れば不良と言える。
それでもシャープに整った面は群を抜いているし、調べた結果、彼の家柄も成績も生徒会に入り得るだけのものがあった。
今しがたの光とのやり取りから、仁志と光がしっかりと関係を築けているのは把握した。
木崎が受けた仁志の怒りは、背筋を冷たく射抜くほどで、紛れもなく本物だ。
張り付いて様子を観察しているのは確かなのだろう。
さて、その売人有力候補は一体どんな人物なのか。
外見からの分析を終えた木崎は保健医の顔で、用件が済んだにも関わらず退室しない生徒を見やった。
「気分が優れないようでしたら、少し休んで行きますか?今日はもうHRだけですし、寮に戻って安静にしている方がいいと思いますが」
「生徒会の人間は、そう簡単に休めねぇんだよ。仕事あっから」
「大変ですね。今学期は行事も多いそうですから、体を壊さない程度に頑張って下さい。息抜きに遊ぶことも大切ですよ」
丁寧な言葉遣いで微笑みを浮かべるが、仁志の目はどこか探るようにこちらを窺っている。
隠す素振りもない相手の不信感に、内心だけで苦笑が漏れた。
秘密が続かないタイプに違いない。
黙っていようと態度がすべてを物語る。
光の前回の潜入先にいたのは引っかかるが、この手の人間に狡猾なドラッグの売人が務まるだろうか。
木崎の方はまったく表情を変えず、仁志を観察した。
すると、仁志は億劫そうに顔を顰めて。
「その嘘くせぇ面どうにかしろよ」
「はい?」
「おっさんみたいなの、うちの連中には格好の餌食なんだよ。生徒に纏わりつかれてても、助けてやらねぇぞ」
言うだけ言って、踵を返してしまった。
パシンッと扉が閉まり、足音が遠ざかる。
一人の残された男は暫時動けず、渡されたプリントが床に落ちた。
「はっ……はははっ」
駄目だ、面白い。
剥き身の警戒で木崎が本性を偽っていると察したくせに、危害はないと判断したのは何故か。
答えは簡単、あの生徒は自分と同類。
勘が強い。
相手が外面を作っていると分かれば、普通に考えて益々警戒するはずなのに、勘でセーフを出したのだ。
麻薬調査に入った自分に、セーフを。
木崎の勘は告げていた。
あれに売人は無理だと。
「あいつ、いい友達もったな」
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