第二学期の始まりは。




『ただいまより、第二学期始業式を行います。一同、起立っ』

スピーカーから聞こえる綾瀬の声に従い、光はタイミングよく他の生徒と同時に頭を下げた。

今度は隣り合った生徒から横目で睨まれることなく、着席の合図でシートに腰をかけた。

大講堂は例の如く照明が絞られ、ステージにいる副会長の姿がスポットライトの中で燦然と煌く。

光は次に壇上に現れる人間を、冷静に予感していた。

『多忙につきご欠席された学院長に代わり、生徒会会長、穂積 真昼くんからお言葉を頂きます。一同静粛に……礼』

やっぱりな、と呆れ半分で小さく頭を垂れるに留める。

一学期の終業式同様、本来ならば挨拶を行わなければならない学院長は現れず、穂積の名前が呼ばれた。

生徒たちに戸惑う気配は微塵もなく、これがいつものことなのだと察してしまう。

転校して来てから一度も目にしていない本当の学院最高権力者は、一体なにがそんなに忙しいのか。

まさか卒業式も穂積に任せるつもりではなかろうかと、頬を引きつらせた。

副会長と入れ替わりで穂積が舞台に現れると、講堂内の気配がぐっと緊張した。

学年の関係でステージからやや離れているが、ここから見てもライトを浴びた男の美貌は大衆を威圧するほどと分かる。

『長期の夏季休暇が終了した。各人、充実した日々を送ったことを期待する。今学期は第三学年にとって実質の最終学期だ。悔いを残さぬよう……―――』

口を開いた穂積の挨拶は、前回と異なり事務事項に終始することはなかったが、ものの五分程度で締め括られた。

『……―――これを始業の挨拶とする、以上』

ワッと起こった喝采は、果たして彼の挨拶内容へなのか、その短さへなのか。

恐らくは「穂積 真昼」という存在に対する拍手なのだろう。

穂積と入れ替わりで舞台袖に現れたのは、司会進行役の綾瀬だ。

メモを片手にしているとは珍しい。

事前の打ち合わせでプログラムは完全に把握している彼を考えれば、何か急なことでも加わったのか。

『続きまして、本日より当碌鳴学院に着任されます先生をご紹介いたします』

その言葉に、静寂であった講堂がざわめきに包まれた。

「聞いてたー?」
「なにそれ、情報来てねぇよ」
「かっこいいといいよねっ」

そここで交わされる音量は囁きレベルでも、全校生徒が一斉に囁き合えば中々に五月蝿い。

仁志のいない今、当然話かける相手などいない光は零れてくる生徒たちの話を繋ぎ合わせ、この騒々しさの意味を把握しようと試みた。

どうやら学院生たちの情報網に、新しい教師がやって来るなどというネタは引っかかっていなかったらしい。

光という転校生の存在も事前に知れ渡っていたようだから、彼らの情報網も馬鹿にしたものじゃないと考えるが、今回ばかりは例外だったのだろう。

『静粛に。新しい先生に碌鳴学院の品位を誤解されたくなければ、今すぐ黙ってね。……はい、先を続けます』

脅しにも似た発言は強力だった。




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