この程度で潰れるようでは、社会を動かす重要な歯車になど到底なれない。

理由は何にせよ、退学して行く生徒はドロップアウトと呼ばれる脱落者であり、学院に属する者は常にその危険を意識していた。

問題なのはこのドロップアウトの人数が、今年度は例年に比べ圧倒的に多い点である。

各界が注目する碌鳴学院から、常よりも多いドロップアウトを出せば悪目立ちをするのは必至。

どこから足元を掬われるか分からない世界に身を置いている以上、いらぬ注目を集めドラッグ事件が暴かれてしまえば、関係のない生徒の将来にまで影響を及ぼしかねない。

学院内の治安維持だけではなく、生徒の保護を考慮しなければならない生徒会には、「謹慎」という妥協をせざるを得ないのだった。

「長谷川が来てからですね、退学者が増えたのは」
「逸見っ」

淡々と事実を述べる口調で言った右腕を、歌音は硬い声音で窘めた。

室内にいる誰もの脳裏に浮かぶのは、黒いボサボサ頭と分厚い眼鏡。

あの転校生がやって来てから、碌鳴学院は過去にないほど荒れている。

サバイバルゲームではあわや惨事、七夕祭りはドラッグ監禁騒動、極めつけはサマーキャンプの拉致事件だ。

一学期で出た退学者もほとんどが、光関係となれば否定は出来ない。

だが、逸見は歌音を目で制した。

「彼が来てから、学院に潜んでいた膿が明るみに出ているように思えます。我々が今まで見逃していた問題が、長谷川という新しい存在によって」

気付けば流行していたドラッグ。

絶対支配者としての立場を確立するために、生徒会の人間が生徒間へ入って行かなかったことが、被害を拡大させた原因の一端であるのは確実だ。

光によって引っ張り出されなければ、今手にするリストの作成まで、もっと時間を要したことだろう。

あの少年は閉塞した世界に吹き込んだ、新しい風だった。

「そうだな。霜月の処分など、これまでなら出来なかった」
「でも、会長方の勢力は霜月くんが抜けたことで、大きく削がれたはずだよ」
「キャンプんときの件に関わった、霜月の取り巻きは退学にするんだろ?核が抜けた上に、委員が減ったらヤバイと思いますけど」

歌音の指摘に同意を示す仁志は、リストに名を連ねる会長方を数えた。

「退学は無理でも、そのインサニティ?を買った補佐委員は委員会から除籍するんですよね……いや、マジでヤバイぞ」

もともと会長方は、家柄も個人的な資質も優れていた霜月によって、一つに纏められていた組織。

筆頭の退学に加え、除籍処分で委員が激減すれば、学院皇帝直属の組織が弱体化してしまう。

所属人数で権力が決まるわけではないが、大多数の人間に力を示すには、目に見えるものは分かりやすく有効的だし、削減理由が処分というのは頂けない。

明確な権力構図を作り上げてきた学院で、学院長に次ぐ権力を持つ生徒会長の勢力が衰えるのは回避すべきだ。

だが自身の立場を揺るがしかねない事態にも関わらず、穂積は少しも動じることはなかった。




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