「長谷川くんの問題は一先ず置いておいて、霜月くんの方はどうするの?」

サマーキャンプの一件で、インサニティの所持・服用が確定した少年の処遇は決定している。

今尚、学院に留まらせているのは、調査に有用な情報が得られるためだ。

「まだ懲罰房で謹慎中だが、退学勧告はすでに本家に通達してある。綾瀬」
「はいはい」

副会長が配るプリントを見て、帰省していた歌音と逸見が表情を曇らせた。

「こんなに……」

オレンジ髪の下で眉を顰めた少年の呟きは、もっともだ。

書面に記されているのは、霜月がドラッグを渡した生徒のリスト。

自身の退学を言い渡された会長方筆頭は、ほとんど放心状態で隠し立てすることなく話してくれたのだが、まさかA4を埋め尽くすほどの名前が出てくるとは思ってもいなかった。

いよいよ事態は深刻だ。

「霜月が流しただけでこの人数だ、本格的に流行していると考えていいだろう。休暇中の調査では倉橋という生徒が、学院外の売人から別のドラッグを購入しているのを見つけただけだ」
「倉橋くんからは特に学院内の情報を得られそうになかったし、すでに出て行ってもらったよ」

周囲の人間に隠して、定期的に城下町でドラッグを購入していただけの倉橋を、いつまでも学院に留めておく必要はない。

二学期が始まる前にこの学び舎を去ってもらった。

「リストの奴らも切るのか?」

頭を切り替えたらしい仁志の質問に、穂積は否を唱える。

「事件にまで発展させた霜月は退学にするしかないが、あいつ同様にドラッグとの認識を持っていなかった生徒もいるはずだ。謹慎処分が妥当だろう」
「いいのかよ?ジャンキーだっているかもしれねぇのに」
「重度の中毒者だったら、他の生徒の目にとまっているはずだから、今はまだ出ていないと思うよ。薬物を服用していた自覚がない子は、謹慎で仕方ないんじゃないかな。今年はドロップアウトが多すぎたから」

そう、歌音の言うようにこれは「仕方のない」判断だった。

穂積とてインサニティなどに手を出した生徒を、そのまま在籍させておくのは本意ではない。

例え遊び半分の媚薬と勘違いしていたとしても、自分たちの立場を冷静に振り返れば、手を出すはずのない代物だ。

自覚の足りない浅薄な行動は、学院の治安を任されている穂積にとって見過ごしたくはないのが本音。

だが「ドロップアウト」のフレーズが出てくれば、そうも言ってはいられなかった。

各分野の後継となる人間が多く在籍する碌鳴学院には、二つの役割がある。

一つは未来の担い手に相応しい人材の育成。

毎月行われる趣向を凝らした行事は、まさにこの「育成」を目的にしたものだ。

あらゆる局面に対応する判断力や柔軟性、発想力の強化などを狙いとした、他に類をみないイベントが企画開催されている。

そして生徒たちの「ふるいがけ」が、もう一つの役割だった。

ハイレベルな授業内容についていけない者、社交性が乏しく学院に馴染めない者、外界から隔離された環境に耐えられない者。

碌鳴の中で生きていけない生徒が毎年十数人、自主退学をするのだ。




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