学院の事情。




SIDE:生徒会

「あれでよかったの?」

仁志との言い争いも一先ず落ち着いた頃、言ったのは歌音だった。

穂積は手元の調査書から目を上げて、相手の碧眼を見つめ返す。

仁志と綾瀬から転校生の帰省先を訪問したと聞いたのは、昨夜。

城下町で一人調査を続ける穂積に配慮して、ずっと報告をしていなかった二人の話は、光のバックグラウンドの不可解を教えてくれた。

「今の話、確かに辻褄はあってる。けど、どこか腑に落ちないんだ」
「あぁ」

誰もいないマンションの一室は、伯母夫婦が六月頃に借りたものの腰を痛めたため、友人から借りた別荘で暮らしていた。

帰省届けの住所がマンションのままだったのは光自身、伯母夫婦があのマンションで暮らしていないことを帰省直前まで知らなかったから。

仕事の都合で海外にいる両親はワーカホリック気味で、自宅への連絡は意味をなさない。

絶対にあり得ない展開ではないだろうが、どうにも釈然としない。

それは、光の帰省が唐突過ぎたせいでもあるし、彼を取り巻く家族の姿がまったく見えてこないせいでもある。

まるで、住所や電話番号だけ用意しているようだ。

先刻の呼び出しで納得の行く返答を貰う予定だったのに、あの程度の審問でよかったのかと、そう歌音は言っていた。

「書類上にはどこも不審な点はないけど、それはあくまでデータの話。住んでいないマンションを、そのまま借りっぱなしにするかなぁ」

給湯室から現れた綾瀬は、トレイの上に人数分のコーヒーを載せていた。

「長谷川くんの家って、一般中流家庭でしょ?僕ならさっさと解約しちゃうけど」
「賃貸契約が年間だったのかもしれません。気になるようでしたら、本格的に調べますが」

逸見の言う「本格的」とは、人を使って徹底的に身辺を洗うということ。

少し漁れば出てくる個人情報のみならず、光の行動や親族、交友関係までを完全に調べ上げる。

「データに問題はなかったのなら、今はまでそこまでしちゃ駄目。あまりに長谷川くんに失礼だ」

歌音のきっぱりとした口調に、全員が納得した。

一人掛けのアンティークチェアを引いてきた逸見に倣い、各人それぞれが応接セットにつく。

デスクから離れない生徒会書記を、穂積は見やった。

光が入室してから一言も言葉を発していない男は、まるで彼らしくない。

友人を疑うような会話に入る気はないのだろうが、仁志の性格上、文句や擁護の声を上げないのは意外だ。

「どうしたの?」
「いや……何でもないです」

しかし、綾瀬に応じてソファへとやって来た金髪頭からは、予想していた不機嫌を感じられなかった。

何事かを思案している、己の内側に向かった表情。

問いかけも無駄と知っている生徒会メンバーは、後輩の様子を気にしながらも本題へと進んだ。




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