出来る限り辻褄が合うよう考えた結果、この言い訳しか思いつかなかったのだから仕方ない。

動揺する胸の中心に、冷ややかな手が忍び寄った。

しかし。

「戻って来たならそれでいい。今度からは連絡がつくところに帰れ」

不意に頬を緩めたかと思うと、与えられたのは簡潔な注意。

予想外の言葉は肩透かしと言っても過言ではないほどで、光はコクンと頷くことしか出来ない。

信じたのか。

光の嘘を。

チラとも疑わなかったのか。

光の正体を。

願ってもいない理想の結果なのに、何故だろうか

歯切れが悪いというか、居心地が悪いというか。

「俺はここにいる」と言って変装を解いてやりたくなった己を認識して、ようやくぎこちない気持ちの原因を悟った。

途端に気分が急降下する。

いい加減にしろ、自分。

正体が発覚してはならないから、今まさに嘘をついて生徒会役員を欺いたというに、まだ穂積に気付いて欲しがっているなんて、まったく笑えない。

自己嫌悪に肩を落とす光だったが、次いで寄越された言葉に我に返った。

「今度のことで、お前は生徒会全体に心配をかけたことを忘れるな。自分の立場が学内でどれほど危ういのか十分に理解しているはずだ。綾瀬と仁志には特に謝っておけよ」
「あ……」

そうだ。

綾瀬と仁志は光の帰省先にまで来てくれたのだ。

この暑い最中、わざわざ他県にある無人のマンションに。

二学期は本当に忙しいのだと、生徒会室を埋め尽くす書類を見れば分かる。

仕事を後回しにしてまで、心配してくれた。

光は背後を振り返ると、こちらを見ていた綾瀬に向かって深く頭を下げた。

「本当に、すいませんでしたっ。心配してくれて、ありがとうございます」
「いいよいいよっ。頭下げないで!穂積ばっかり仕事サボってるのズルいから、僕たちも遊びに行っちゃえって思っただけだし」
「けど、俺いきなりいなくなって」
「いきなりとか暴走とかは、穂積とか穂積とか仁志くんで慣れてるから大丈夫。でも、もう黙っていなくならないで」
「綾瀬くん……」

にこやかに言う副会長様の失言に、歌音が苦笑を浮かべる。

苦笑で収まらないのは会長様と転校生だ。

「聞いてくれる?穂積ってば、休み中ずっとどっか行ってて、他の仕事はぜーんぶ僕に押し付けてたんだよ。会長様自らサボリなんて、ズルいと思わない?」

何だかよろしくない話題になりそうだと、光は口角を引きつらせて曖昧に笑った。

「誰がサボっていると?」
「えー、だって君一人で遊びに行ってたんでしょ?」

すいません、城下町で調査を手伝わせていました。

「必要な分は終らせてあるだろう」
「差し迫ったのだけね。二学期大変なことになりそうだなぁ……」

ごめんなさい、仕事を停滞させて。

「俺には俺の仕事がある」
「そんなこと言って、昨日まではいっつも出かけてたじゃないか。歌音ちゃんたちだって、一週間前には戻って来てたのにさ」

それは知らない。

まさかの情報を得てしまったが、恐らく「千影」が妙な別れ方をしたせいだろうと考えると、申し訳なくなる。

一人きりでカフェに通い続けた男の姿を想像して、むず痒い気分だ。

「はっ!まさか、君……好きな子が」
「あ―――やせ先輩!!!」

エスカレートする綾瀬の失言に、ついにストップをかけた仁志の声。

これ以上は魔王降臨の危険があったのだろう。

何やら聞いてはならない話を聞いてしまった気分で、光はドア脇に立つ逸見にだけ小さく会釈をすると、そっと生徒会室を後にした。

絨毯の敷かれた階段を下りる途中から、聞こえてくる声は仁志の怒鳴り声になっていたけれど、会話の仔細は知らぬが仏。




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