過去と現在。




SIDE:間垣

時刻は深夜だった。

間垣は意気揚々と訪れたマンションの一室の、インターホンを押した。

電子音はすぐに止まり、まるで待ち構えていたのではないかと思わせる速さで、眼前の扉が開く。

「悪かったな、遅くに」
「フミさんのお願いですから、断るわけないじゃないですか」

出迎えた先輩に当然と笑みを向ける。

風呂に入った後なのか、木崎の格好は薄手のTシャツとスウェットといったラフなもので、見慣れたスーツ以外の姿を見れただけでも、引き受けた甲斐はあったと思う。

セットを下ろした髪も新鮮で、益々口角が上がった。

「昼と印象違いますね」
「どっちもいい男だろ?」
「あー、そうですね」
「……否定しろ」

この年にもなって肯定されるのは少々厳しいものがあると、木崎は玄関のシューズクローゼットに寄りかかって嘆息した。

間垣は「あははっ」と笑いながら、何気ない様子でその横を通り過ぎようとして。

ガンッ!

出来なかった。

「ここから先に入れると思うなよ」
「人をパシっといて、その態度はなくないですか」
「いいから言ったもん渡せ」
ドア枠を蹴りつけた長い足が、通行を認めてくれない。

尊大に腕を組んで不敵に言い放つ男の表情は、彼が大切にしている少年の前とはかけ離れている。

そうしてその表情は、間垣が昔から見てきた姿でもあった。

「分かりました、入りません。はい、頼まれたものです」

我侭な思い人に向けるものとよく似た苦笑を零しつつ、持って来た大きな紙袋を差し出した。

受け取った相手は中身を覗いて確認をする。

「急に連絡して来たかと思えば、こんなもの何に使うんですか?」
「聞けば教えてもらえると思ったか、愚か者め」
「……千影くんと扱いに差があり過ぎませんか」
「俺の中にある大切なものランキングで、千影がぶっちぎり一位だとしたら、お前の順位は四十三位だな」
「低いっ!」

いくらなんでも、その順位はあんまりだ。

仕事終わりにこうしてパシリまでこなしていると言うのに。

あっさりと言ってのけた相手を、恨みがましく見つめてしまう。

目に見えてへこんでいると、木崎は呆れたように頬を緩めた。

「これの使用用途って言ったら、限られてんだろ?」

確かにそうだ。

袋に入れた品々は、自分にも馴染みのあるものばかりで、木崎が何に使うかなど容易に知れた。




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