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正体追求とか、逃げた理由とか。
そんなことよりもまず、光の失踪に純粋な気持ちで心を砕いて、必死に探して、心配してくれた。
怜悧な容姿を持つ彼の、あたたかい心根に何度も触れていたはずの自分は、まったく分かっていなかった。
馬鹿だ。
馬鹿で愚かな自分に、後悔が高波となって強襲する。
「ごめん、ごめん仁志。心配かけて……ごめんっ」
「っのアホ……!」
更に強くなった腕の力を痛いとは思わなかった。
光は彼の背中のシャツをぎゅっと掴む。
己の仕出かした真似の暴力を、ただただ悔いて痛感する。
いつだって自分を心配してくれていた仁志に、自分勝手な行動で激しい苦しさを与えてしまったのだ。
ごめんなさい、ごめんなさい。
心配ばかりかけて、何も分かっていなくて。
仁志の真っ直ぐに、応えられなかった自分で。
「ごめんっ……」
でも今は、胸いっぱいに満ちた思いは罪悪感ではなかった。
恐怖心ばかりでもなかった。
脳裏を過ぎていく黒曜石の煌き。
光はそっと相手の体を押し返すと、その深い感情を称えた目をしっかりと見据えた。
「仁志、ごめん。もう少しだけ待って」
「光?」
「俺はもう、本当に仁志の友達になりたいから……だから、全部話すよ。あと少しだけ、俺に猶予をくれ」
もう逃げ出さない。
震える足でも前進すると、決めたのだ。
あの男を信じられた自分は、もう誰も信じられないわけじゃない。
あの男に気付かされた自分は、もう言い訳に縋ったりしない。
再び学院へ舞い戻った少年からは、消える前とはどこか異なる強い意志が感じられた。
仁志はもう一度だけ、存在を確かめるように光を抱き締めると、掠れた声で言った。
「待つ、待ってやるから……頼むから消えんじゃねぇよ」
あぁ、自分は馬鹿だ。
これほど仁志を追い詰めたのに、何も知らず追い詰められた顔でいたなんて。
ここまで来ないと、覚悟を決められなかったなんて。
以前よりもずっと、仁志と友達になりたくなってしまった。
光は碌鳴学院に、帰ってきたのだ。
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