まるで飢えた獣のように、焦燥と飢餓感が身内にあるのは何故か。

解はあまりに明白。

千影との別れにまったく納得できていないから。

夏が終わるから会えなくなる。

またいなくなる。

さっぱり意味が分からない。

理由とするには不十分過ぎるではないか。

何より分からないのは。


――もし真昼が俺のことを本当に見ていたなら、きっとまた会える


考えれば考えるほどドツボにはまり、思考がこじれて混乱しそうだ。

息抜きがてら花火をしたのに、その花火の場で頭を悩ませる種を手に入れてしまったなんて、本末転倒。

穂積は肺に溜まった衝動を吐き出すように、深く長く嘆息した。

新しい客が店のドアを引いたのは、そのとき。

来店者が来るたびに出入り口を確認しては落胆の繰り返しだった男は、違うと分かっていながら顔を上げずにはいられない自分に苦い気持ちになった。

「いらっしゃいませ」の言葉を店員から受けたのは、やはり求める少年ではない。

だが穂積は、長い足でこちらへと近付いてくる人物を、食い入るように見つめる他なかった。

「お前……」

驚愕の呟きが聞こえているだろうに、男は穂積の前を無言で通り過ぎると、隣のソファへと腰を下ろした。

よれたサマースーツに、色男と形容するのが相応しい容姿。

アイスティーをストレートで注文した相手は、ポケットから煙草を取り出し慣れた手つきで火を点ける。

名前は知らないが、穂積は彼を知っていた。

千影の作る味噌汁を毎日飲めるような関係だ、なんてふざけた挑発を仕掛けて来た男。

千影の身を危惧して、本気の眼で銃口を押し当ててきた男。

完全に途絶えたと思った千影との、最後の接点だ。

飄々と素知らぬ顔で紫煙を燻らせる姿は、穂積の苛立ちを誘った。

図ったようなタイミングで訪れた男が、偶然この店にやって来たわけでないことは明らか。

何の用があって、再び現れたのか。

相手のペースに乗せられていると、気付かぬほど愚鈍ではない。

穂積は内心の腹立たしさを落ち着けようと、アイスコーヒーを呷った。

「フラれたか?」

と、そこで投げられたからかい口調。

横目で鋭く睨んだ。




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