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細い体を縛り付ける鎖の鍵は、千影の手の内に握りこまれていて、真実逃れたいと思えばいつでも拘束から抜け出せた。
息苦しさに悶え、奈落へと無抵抗に沈みかけて。
でも本当は、ずっと自由だった。
「俺には、本心を曲げてまで相手に応えない方が、友達になることよりもよっぽど重罪に思える」
嫌われるのが怖いと、何度も思っていたくせに、どうして今まで気付かないふりをしていたのだろう。
真実を告げたときの仁志の反応を想像して、足が竦んでしまった。
だから、資格だなんだと理由を探して、扉の前で鎖に繋がれていた。
開かれたその先に待つものを、知らないままでいるために、自ら鍵を使わなかっただけだ。
立ち止まっていては、「友達」になることなど不可能だと理解していたけれど、同時に現状維持は叶うかもしれないと、淡くずるい期待。
苦しむことで、身を守っていた。
保身ばかりを優先した己は、穂積の言う通り重罪だ。
どんな顔をされようとも、友達になりたいのならば扉を開けるしかないのに。
押さえつける鎖が千切れるほど、想いは強く育っていたのに。
「なんのせいで相手を友達と呼べないのかは知らないが、時には考えるより本能に従うことが、最善のこともあるんだ―――お前はそいつと、友達になりたいのか?なりたくないのか?」
二択を提示してくる男は、きっと知っている。
「信じたい」と言い切った千影の答えは、たった一つきりだと知っている。
もういい加減、鎖を外すべきだ。
見ればほとんど劣化して、使い物にならないだろう。
想いを縛るには、まったくの無力。
心のままに、千影は自由になればよかった。
「なりたい……。俺は、友達になりたい」
ほら、こんなにも簡単なこと。
穂積は正解だとでも言うように、満足げな笑みを口元に描く。
「なら、そのためにお前がしなければならないことを、すればいい。悩むことはいつだって出来るだろう。そいつが信じるに値するやつなら、本心を言えばいい」
心のままにぶつかって。
結果生まれたものが、仁志の拒絶だとしても受け入れる。
軽蔑でも嫌悪でも、傷ついた瞳だとしても。
ぶつかるしかない。
臆病のままでいるのは、終わり。
だって千影は、仁志と友達になりたいのだから。
気付けばこちらに向けられていた穂積の双眸に、少年はひたと目を合わせると、確かに頷いた。
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