「ロケットないのか?」
「……お前、俺を狙うつもりだろう」
「あ、それで行こう」
「潰される覚悟は出来ているらしいな」

嫌な予感に振り返れば、打ち上げをこちらに向けた穂積が、ライターをカチリとやった。

「冗談だろっ、ちょっと、待った、タイムタイム!」

騒がしい笑い声が、熱帯夜に響き渡る。

民家が近くないお陰で、誰に気兼ねすることもない。

これほど自由に遊んだのは、初めてだ。

昔から遊ぶと言っても相手は年上ばかり。

木崎や間垣といるのも楽しかったけれど、相手をしてもらっている感覚の方が強くて、どこかでセーブしている部分があった。

年を経れば調査で関わる同年代は増えたけれど、捜査員としての自覚で心のままに楽しむだなんて考えもしない。

穂積たちと関わっているのも、調査の一環だ。

けれど、千影は碌鳴学院に入って初めて、年相応の自分になれた気がした。

すべてを明かしたいと、思うほど。

「千影」
「なに?」
「友達に、資格は必要か?」
「え……」

笑いが落ち着いたとき、唐突に男は言った。

身内に巣食う気詰まりを、すっかり忘れていたせいで、暫時なにを言われたのか理解しかねた。

穂積は眩い緑の光を見つめたまま、こちらを見ることもない。

与えられた疑問符が、ゆっくりと落ちて行き指の先まで廻る。

「友達に、資格は必要なのか?」
「……」

深い音色がそう訊ねるけれど、少年の喉から何かが零れることはなかった。

ドクドクと、血の流れが加速。

不良染みた容姿の金髪頭の男が、脳裏に浮かんだ。

乱雑な言動に反して、すっと通った一本の意思は千影が持ちえぬもの。

嘘と逃避ばかりで臆病になった自分を嫌悪しながら、見つけた扉を前に足を止めている。

真っ直ぐでない、自分。

友達になる資格がない、言ったのは千影だ。

なのに、穂積に返せないのはどうしてなのか。

本当は、気付いているから。

「そう思っているのなら、それはお前が自分で作った自戒の枷でしかない」

気付いていたから。

自分がただ同じ場所で足踏みをしていたことに。




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