シュッと軽い音が聞こえたと思ったのと、身を浸す群青の中に白い明かりが噴出したのはほぼ同時だった。

一つの方向に流れる火花は、柄を持つ男の姿を煌々と闇から切り抜く。

鼻先を掠める、火薬の臭い。

「花火……」
「火遊びだろう?」

白から緑に変わった花を差し出され、千影は呆然とした面持ちで受け取った。

新たな一本を持った穂積が隣に並び、こちらから火種を取る。

少年の花火が終わる前に、もう一つ白い光りが上がった。

穂積はさらに新しい花火に火を移しながら、口を開いた。

「膠着状態に陥ったときは、気分転換が重要だからな。適度に息抜きを入れないと、大事なものを見落とす危険がある」

いつか聞いたことのある内容の台詞。

彼の言う膠着状態とは、なかなか思うように進展しないドラッグの調査なのだろうが、千影はまるで、己の踏ん切りつかない感情を指摘されている錯覚を覚えてしまう。

真っ直ぐになれず、なる努力にすら臆しながらも、仁志と本当の意味で友人になりたいと願う自分。

やるべきことが見えたのに、最後の勇気が固まらない。

そんな自分を言い当てられた気がして、誤魔化すように花火に意識を注いだ。

「さっきコンビニで買ったのって、これだったんだ」
「あぁ」
「久々だ、花火」
「そうなのか?」
「昔はよく武……知り合いとやったんだけど」
「俺は中学以来だな。火気厳禁の場所で火をつけた馬鹿がいた」

保護者の名前を言いかけて内心慌てふためくも、穂積は追及することなく自分のエピソードを語ってくれた。

「常識がないなら買ってでも身につけろ、と言ったらキレられたな」

犯人は絶対に仁志だ。

穂積にキレる人間と言ったら、あの不良以外にいるはずがない。

「まぁ、もう一人が間違えてロケット花火をこちらに向けて持っていたから、うやむやになったが」

こちらは確実に綾瀬だろう、と検討がついてしまう。

学院に潜入していた身としては、当時の様子がイメージできて笑いを堪えるのが辛い。

穂積の嫌味にキレた仁志と、計算か天然か微妙な加減でロケット花火を人に向けて点火した綾瀬。

傍では苦笑する歌音と、呆れながらも笑う逸見が、必死にロケットから逃げる二人を傍観しているはずだ。

千影の知らない、中学時代の生徒会の面々は、その頃から今のように仲が良かったのだろうか。

学院に戻ったら、仁志に当時の写真を見せてもらおう。

ベンチに広げられた花火を物色しながら、心に決めた。




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