友達の資格。




久しぶりに耳にした「ゴミ虫」。

現在までほとんど毎日会っている彼だが、学院での「穂積 真昼」を思い出してしまった。

何しろ互いに名乗りあった日から、穂積のことを「真昼」と呼んでいる千影だ。

生徒会長としての穂積と言うよりも、ただの「真昼」と接していた認識の方が強く、すっかり学院での彼を忘れていた。

協力関係を結ぶまでは、あれほど生徒会という存在を意識していたのに、いつから彼に付随するものを忘れていたのだろう。

「休みボケし過ぎた……」

来週から始まる新学期が不安になる。

「真昼」と会い続けたのは自分でも、「光」ではない。

ここ数週間の記憶すべては「千影」の中にしまって、「長谷川 光」へ戻らなければ。

光として最後に穂積と会った、あの甘い甘い夜まで戻らなければ。

深く、長く口付けを施された、あの夜まで。

「っ……!!」

しまった、やはり休みボケだ。

ここ最近のせいで蓋が緩んでいたのだろうが、パンドラの箱をあっさり開きかけてしまうなんて、一体何を考えている。

暑さで防衛本能やられてしまったのではと、疑ってしまう。

だが、これほど取り乱してしまう箱の中身と、千影はもう暫くの後には対峙しなければならない。

恥ずかしさと混乱のあまりデリートしたい記憶でも、「光」と「穂積」の記憶はそこから始まるのだ。

アレをしかけた穂積の心境が分からないだけに、どんな顔で向き合えばいいのかも分からない。

熱のこもった息を零した少年は、まだ人通りの多くない街の表通りを、わき道へと折れた。

マンションを出てきた時間を考えれば、まだ穂積は来ていないはず。

沸騰寸前の頭を落ち着ける猶予があるといい。

脳裏によく冷えたアイスティーを思い浮かべたとき、ふと視界の端を掠めた人影があった。

何てことはない、高校生くらいの男二人組みだ。

平時から表に比べずっと人気の少ないこの道だが、自分たち以外の人間がまったくいないわけでもない。

彼らは友達なのか、気心知れた様子で片方がベンチに、もう一人がその前に立って何事か話している。

不思議と目を引いたものの、特別目立つ風体でもなく、また学院生らしい雰囲気でもなかった。

どうして見てしまったのだろう。

気になった千影は二人の死角となる、やや離れた場所のベンチに腰を下ろした。

会話内容までは窺えないものの、楽しそうに笑っているのは分かる。

時折、立っている方が片割れの頭を叩いたり、それにやり返したりが混じる。

どこから見ても、「友人」だ。

あぁ、そうか。




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