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発達した勘が教えてくれる。
「穂積 真昼」ならば、千影の信頼を得られるかもしれないと。
ふぅっとやや長く息を吐き出し、そっと相手に向けた銃を外した。
後続車がいないのいいことに、シートに背中を預けた。
信号が、青に変わる。
穂積は緊張を解く様子もなく、あっさりとした調子でシートベルトを外すと扉を開けた。
さっさと降りる姿をただ眺めた。
ドライブといっても、コースは城下町の周りをぐるりと走っただけだから、すぐに知った道に出られるだろう。
話したいことはすべて伝えたし、聞きたいことはすべて手に入れた。
彼に用はない、今のところ。
扉を閉める直前、穂積は車内を覗き込んで来た。
なんだと思えば、挑戦的な続きが寄越される。
「そのときは喜んで頭差し出してやる。待つだけ無駄だがな」
「随分な自信で……惚れたか?」
何となく最後に問うてしまった。
からかいよりも、純粋な疑問が強い。
彼の端整な顔が一時停止をして、それから自嘲気味に苦笑。
困惑しているような、やけに人間臭い表情に。
この顔が一番「本当」だと、気付く。
「今はゴミ虫で手一杯だ」
気合を入れていた分だけ脱力と安心は盛大で、剥き出しの神経でひどく感覚的なことを思っていたら、穂積は意味の分からない返事をして、今度こそ扉を閉めた。
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