射抜くように真っ直ぐな穂積の双眸に、千影の固く弱い扉が細く細く開かれたのか。

それとも渡された鍵を、受け取ったのか。

ふざけた態度で現れた木崎に対し、偽る気持ちも流す気配も抱かず、感じ取ったありのままを音にした男は、確かに千影の心を見抜いていた。

「……やっぱり温いな」
「悪かったな」

言えば、穂積の顔が不機嫌に歪む。

仏頂面さえ整っているところが不思議とおかしかった。

「いや、悪くない。悪くないが……」
「なんだ」
「俺はずっと千影をみてきた。今この世界で一番大事な人間は千影だし、この先千影を上回る人間が現れる可能性はゼロだ」
「言い切るな」

当然だ。

再び赤信号が点灯した瞬間、木崎はグッとブレーキを踏みつけ急停止をかけた。

丁寧な運転から一変した乱暴なそれに、助手席に座った相手が息を呑む。

シートベルトが外れる音が鳴ったときには、木崎は背広の内側から黒い硬質な凶器を取り出していた。

「……何の真似だ」

側頭部に押し付けられたものの正体を、分かっているだろうに。

動揺を素早く消し去った穂積は、銃口を向ける木崎を底冷えのする視線で睨み上げた。

果てのない黒曜石とまともにぶつかる。

鋭利な刃を思わせる気迫に、しかし負けてやるつもりはなかった。

冗談の余地さえ挟まず、言った。

「千影に傷を負わせた瞬間、お前の頭蓋を打ち抜く」

地を這う低音が紡ぐのは、脅しではない。

予告だ。

身体的にも、精神的にも。

千影に傷を負わせることは許さない。

誰よりも早く傷をつけた男は、明確な意思で穂積を照らした。

返されたのは。

「いいだろう」

尊大で優雅で満足げな、笑み。

死神の鎌など眼中にないかのように、支配者然とした余裕を醸し出す。

絶対の勝者だけが刻むことの叶う口元の弧。

状況を考えれば絶対に出てこないはずの態度に、木崎は喉の奥で笑った。

あぁ、彼ならば「大丈夫」だ。

これまで千影が出会った誰とも異なるであろう彼ならば、「大丈夫」なのだ。

木崎もまた子供より長い間、人を疑って生きて来た。

他人を見る目に自負がある。




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