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太陽の下告げられた一言が、どれほど嬉しかったか。
どれほど、安堵したか。
まだまだ完全ではないけれど、少しずつ千影との間に聳える壁が低くなればいい。
もっともっと、低くなればいい。
そうしていつか跡形もなく消えた境界線に踏み込んで、初めて穂積は千影の心に触れることが出来る気がしていた。
千影を護りたい。
護らなければならない。
最奥から姿を見せた本音。
運転席の男に突かれて、つい手を伸ばしてしまったが、聊か不用意だったかもしれない。
穂積は無防備にも触れてしまったのである。
初めて「あの少年」のために走ったとき、抱いた思いの欠片に。
掠めた指先は電流でも流されたように、さっと引っ込められてしまったけれど。
確かに、触れた。
自分は、長谷川 光にも同じことを感じたのだ。
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