SIDE:木崎

ここ最近、千影が隠れて何かをやっていることには気付いていた。

一時期は悪化していた子供の様子が、少しずつだが明らかに浮上して来ているのだから、気になるのも当然だ。

自分に黙って危険な真似をするとは思えないが、保護者としての心配から、つい出かけた千影の後を尾行してしまったのが数日前。

行き着いた先は最近急増している、インテリアにも力を入れたカフェ。

親しげな様子で合流する秀でた容姿の男が、碌鳴学院の生徒だと知ったとき、木崎は驚愕を隠せなかった。

普通に考えれば、あり得ない。

いくら学院で変装しているとはいえ、潜入先の人間に素顔のまま会っているだなんて、今までの千影を振り返れば考えられない暴挙である。

それも一度や二度ではなく、毎日のようにその店でテーブルを挟んでいたのだ。

真っ先に出てきた理由は、相手の男に脅迫を受けているのではないかというもの。

光であることを悟られ、調査断念を危惧した千影は、相手の言うまま面会を続けているのではないか。

だが、穂積に向ける子供の瞳には、抵抗の意思もなければ敵意もない。

むしろ心を許している風にも見受けられた。

問題が発生しても他人に明かさず、自分の中だけで解決しようとする千影だからこそ、有力かと思われた仮説はあっさりと捨てるはめになった。

ならば自分から正体を明かしたと考えるのが自然な流れだが、それだけはないと木崎は断言できる。

今まさにこちらが想定していない行動を取っていようと、木崎に告げぬまま調査員として最低限のルールを破る性格ではない。

仮に誰かに真実を語るとしても、彼は必ず自分に言ってくるだろう。

とすれば、千影は「長谷川 光」とは別の人間として、穂積という男と交流を持ったと考えられた。

学院の人間と会う危険性を十分承知した上で、千影がコンタクトを取りたいと思う男。

流れて行く景色を眺めているようで、実際はこちらに神経を注いでいる助手席の人物の、何がそうさせるのか。

これまで少年が関わって来た誰とも違う何かが、彼にはあるのか。

木崎には、見極める必要があった。

「で、一体どういうつもりで、うちの千影とほぼ毎日密会してるんだ」
「……その前にはっきりさせろ。お前こそあいつの何だ」

軽い調子で口火を切るも、返される応答は厳しい。

真面目な人種であることは、ナンパ紛いのやり取りで分かっていたが、この手のタイプは嫌いじゃない。

木崎は丁寧にハンドルをきった。

「余裕ないな、お兄さん」
「見ず知らずの人間の、誘いにのってやっただけ有難いと思え」

「傲慢って言われたことないか?」
「黙れ。さっさと質問に答えろ」

急落した機嫌に笑いが漏れる。

尊大な態度は可愛くないが、分かりやすいやつだ。

「さっきも言っただろ?千影の作る飯を食って日々活力を得ている、一つ屋根の下に住む男だよ」
「……」

黙ってしまった穂積は、恐らく顔を顰めているだろう。

横目で確認すれば、想像通りでただの笑いが苦笑に変わった。

懺悔の片鱗を舌に乗せてしまったのは、相手の不機嫌が警戒しなければならないものではないと、分かったからかもしれない。

「そして、アイツを作った罪人だ」




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