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SIDE:仁志
どこかで会った気がする。
授業開始早々、寝る準備を始めた仁志は、ちらりと左隣の転校生を見た。
妙な時期にやって来た、地味以外の形容詞が見つからない少年は、思いのほか面白い内面を持っていて、仁志は久々に友達になれそうな相手が現れたと、満足していた。
だが、同時に気になったことがある。
鬱陶しい黒髪と、過去の遺物である黒縁眼鏡。
前髪で更に目元を覆った光の外見は、まるで顔を隠しているかのようだ。
根暗を絵に描いたような姿の彼は、酷すぎて逆に忘れないだろう。
それでも仁志は、光をどこかで見かけたことがあるような気がしていた。
忘れないはずなのに、曖昧な感覚。
どれほど記憶を辿っても、こんな地味な奴は存在しない。
記憶力はいい方だと自負している仁志だったが、光に関しては例外なのか。
覚えがないのなら、会ったことなどないと結論付けてしまえばいい。
しかし、仁志の勘がストップをかける。
どこかで会った、いや会っていない。
会っていない、けど会ったように思える。
同じ場所をぐるぐる回り、堂々巡りの思考。
なぜここまで気になるのかも疑問の一つだ。
「くだらねぇ……」
ボソリと呟くと、仁志は嘆息。
取り合えず、自分は光を気に入ったのだから、それでいいではないか。
付き合っていく過程で思い出すかもしれないし、思い出さなくとも彼との関係に支障はない。
うだうだ影で悩むのは、光に対しても失礼だろう。
友達付き合いをしてみよう、と決めた仁志は、やっと安心したように睡魔へと身を委ねたのだった。
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