聡明で心優しき副会長は、自分への信用から、容疑者に上がりかけている少年を、信じてくれると言ったのだ。

光の無実を証明する情報を、渡してもいないのに。

仁志に傾ける信用に、賭けてくれたのだ。

何がなんでも、見つけなければならない。

あの少年が麻薬の売買に関わっていないという、決定的な証拠を。

細い体に降りかかった疑惑を、きっぱりと否定できるだけの材料を。

でなければ、自分を信じてくれる綾瀬を、裏切ることになってしまうのだから。

今はまだ、何も伝えることは叶わないけれど、必ず綾瀬に聞かせられるだけのものを集めてみせる。

切れ長の双眸に確かな強さを込めて、仁志は綾瀬を正面から見据えた。

「ありがとうござます」

遠くない未来、貴方にすべてを明かす。

キザキのことも。

不良グループから摘発された、麻薬のことも。

後藤の証言だって。

己の中だけで誓いを立てれば、対面の男は儚げでもあった表情を崩した。

「ううん。それにね、仁志くん勘違いしてる」
「勘違い?」
「そう、勘違い。」

くすくすと愉快そうに口角を上げるのは、ここにはいない誰かのことを考えているからだと、綾瀬の次の台詞で察知した。

「たぶん穂積は、長谷川くんを疑っているんじゃなくて、信じているから調べるように言ったんだと思うよ」

信じているから、長谷川くんの身の潔白を晴らそうとしたんだ。

穂積も、僕たちも、君と同じだよ。

どこか満足そうに続けた綾瀬に、仁志は目を丸くする。

何て勘違い。

自分の信じる生徒会の仲間は、自分の信じる友人のために、こうして尽力してくれていたのだ。

誰一人として、光のことを真実の意味では疑ってなどいなかった。

「はっ、はは……マジかよ。俺、すっげぇ勘違い。あー、だせぇ……」

脱力した男は重力に抗う意思を放り投げ、そのまま絨毯へと座り込んだ。

空回りをした自分の滑稽さに、笑うしかない。

途端に弛緩した室内の緊迫に、綾瀬も笑みを零しながら書類に再度、目を向けた。

「あ、それじゃあ俺は、会長の方を手伝えばいいんですか?」
「うーん、たぶん任せちゃった方がいい気がするんだよね」
「城下町けっこう広いっすよ」
「特に何も言われてないんだけど、ここ最近楽しそうなんだよね、穂積。一人にしてあげた方がいい仕事すると思うんだ」
「なら通常業務、先輩たちのも俺が担当しましょうか」




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