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言い切れる理由は明確だ。
実家に戻り得たもっとも大きな収穫は、面会した後藤の発言。
彼が売りさばいていたドラッグに、側近として一番近くにいたキザキは、手を出していない。
それどころか、警察に通報したかもしれないと言う。
決して長くはないが、友人として過ごした期間で知りえた「長谷川 光」という人間を、信用したいと願う仁志にとって、後藤から引き出した情報は何よりも重要なものだった。
あの不恰好な友人が、ドラッグとの悪しき関わりを持っていないと確信するには、十分だった。
だがもちろん、前回は通報したからといって、今回も100パーセント売り手に回っていないとは言い切れない。
疑いは薄れるかもしれないが、光の潔白を完全に証明することは出来ないのだ。
何より、あの少年の正体の不確かさは少しも解決されておらず、そのような曖昧な状態で綾瀬たちに光を信用しろというのは困難を極める。
最初から光を信じようとしていた仁志には十分でも、感情とは別の。
理性の位置から考えれば、長谷川 光には不確定要素が多すぎた。
「仁志くん」
「……」
「今回の急な帰省と、何か関係があるの?」
「今はまだ……言えない」
苦しそうに紡いだ言葉は、悲痛な色に満ち満ちていた。
言えない。
こんな不明瞭なものしか持っていない現状で、彼らに転校生を信じろなどと、不可能な話だ。
仁志だって、光が何者であるかは分かっていないと言うのに。
体の横に落した両の拳が、彼の内心を示すかの如く強く握りこまれた。
「まだ言えない……でもっ、俺は誰も裏切らないし、アイツ、光もそんなヤツじゃねぇっ!」
キザキはドラッグの売買に加担してはいなかった。
ならば同一人物の光だって同じはず。
信じる男にとって、叫ぶように吐き出した音は根底からの思いだった。
流れた沈黙は、どういう意味だったのだろう。
自分がどれほど無茶なことを口走っているのか自覚しているだけに、圧し掛かる空気の重さが双肩を軋ませた。
「分かった」
「綾瀬、先輩?」
思いがけず穏やかな声に、知らず俯いた顔を上げた。
待っていたのは、柔らかく微笑む綾瀬。
「本当は詳しく事情を聞きたいけど。でも、僕は仁志くんを信じているから……いいよ、これ以上は聞かない」
どこか寂しげにも映る彼の姿は、仁志の心臓をトクリと動かす。
「けど、何か問題が生じたら、僕にだけでもいいから、絶対に話して。一人で抱え込まないで」
与えられた無償の気遣いに、仁志は無言のまま誓うことしか出来ない身を、もどかしく感じる。
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