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学院の最寄り駅を中心とした地方の繁華街とはいえ、城下町は狭くない。
穂積だけで調査するには、とてもじゃないが間に合わない広さだ。
何がどうして綾瀬は調査を外されたのか。
外された綾瀬は、学院に残って一体なにをやっていると言うのか。
通常業務だけ?
いいや、あり得ない。
ドラッグ調査と同時進行で生徒会本来の仕事をこなしてはいるが、綾瀬が一日中書類の処理に携わっているとしたら、今よりずっと積み上がった書類塔の数は少ないはずである。
彼が、何か別の仕事を請け負っているのだと察するのに、かかった時間は短かった。
自然と険しくなる仁志の瞳と、綾瀬の複雑な色をした瞳がぶつかる。
「綾瀬先輩は、何をやっているんすか……?」
「気を、悪くしないでね」
僅かに逡巡した様子の綾瀬だったが、男の疑念に観念したように静かに吐息を逃がすと、そう前置きをした。
「穂積に言われて、長谷川くんのことを調べているんだ」
「なっ……」
鋭い双眸が、ぎょっと目を剥く。
今、綾瀬は何と言ったのか。
光について調べている?
それはつまり、光のことを疑っていると言っているようなものだ。
あまりに衝撃的な発言に、仁志は雷に打たれたかのような錯覚を覚えた。
次いで湧き起こったのは、強すぎる否定。
「あいつとドラッグは関係ないっ!」
力いっぱい机に叩きつけたグラスの底が、ダンッと音を上げて内側の水面を盛大に波立たせた。
掴む指が白くなり、握力だけで割ってしまいそうだ。
どうしてそんなことになっている。
今回の調査は、転校生にかかった疑いを晴らす意味も持っているのだと考えていたのは、自分だけだったのか。
実家に戻っている間に何が起こった。
急速に沸点へと押し上げられた血液は、仁志の頭を混乱させ、飛び出した言葉に綾瀬が怪訝な表情をしても気付けなかった。
「あいつは違うっ、ドラッグとは関係ないし売人でもない」
「仁志くん」
「なんですか!?」
「君はどうして、言い切れるの?」
「え……」
憤りに熱くなっていた血が、綾瀬の一言に凍りついた。
しまった。
つい明言してしまった。
彫像の如く強張って行く仁志の面を、戸惑いに揺れていたときから一変、理知の光りを宿した相手の眼がじっと見るから堪らない。
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