◇
「袖、ざっくり行きましたね……。どうするんです?千影くんに心配かけますよ」
「だよな……。あぁ、どうせ出張所にそいつ連れて行くんだ。お前の着替え貸せ」
言って、木崎は隅の方に倒れている、先ほど気絶させた売人を目で示した。
「いいですよ。フミさんになら、いくらでも貸してあげます」
「そら有難い。ついでにコインパーキングの代金も頼む」
「返す気ないでしょ?別にいいですけど。で、こいつらはどうします」
「警察に連絡しとけ、恐らくシロだ」
「勘ですか」
「文句あるか?」
軽く頬を叩いて意識を浮上させた売人を、間垣に押し付けながら問う。
そのまま自分はさっさと駐車場に向かって歩き出してしまった。
180に届く自分の身の丈より、後輩の方が更に長身なのだから、問題はないはずだ。
暑苦しさにネクタイを緩めつつ、スラックスのポケットに手を突っ込めば、後方から耳に馴染んだ声が答えた。
「あるわけないでしょう」
嬉しそうに弾んだそれは、正義のヒーローにしては従順すぎるものだった。
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