千影は。

「分からない……」
「なに」
「分からないんだ。俺は……疑うことしか知らない」

知らない。

信じ方など、知りようがない。

自分は調査員だ。

幼い頃から多くの場所へ潜入し、容姿名前を偽って情報を集めて来た。

周囲にいる人間すべては欺く対象で、出会う人間すべては疑うべき対象で。

誰が嘘をついているのか、誰が秘密を握っているのか。

言葉の裏に隠された本音を見極め、気兼ねない優しさの背後に目を凝らし、誰を信用することなく生きてきた。

今だってほら。

仁志を信じきれず、信じるための理由を探している。

根拠を求めている。

確証がなければ、手放しで信じることなど出来ない。

安心出来るほど確かなものに、縋らなければならないなんて。

それは果たして、本当に信用していると言えるのだろうか。

自分が信じているものは、相手ではなくて、その根拠なのだ。

無条件で心を預ける何て危険な真似、出来ようはずがない。

自分は、誰かを信じたことがなかった。

木崎さえ、本当の意味では信じてはいないのだ。




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