無言の冷戦は、相手が目を伏せたことで終結を迎えた。

ふぅ、とやや長めに吐き出された吐息の意味は読めない。

穂積は眉間を指で解した後、もう一度こちらを見やった。

「なら手を組め」
「え?」
「どうせ追うものは同じだろう?きっとお前の調べられない範囲を、俺はカバー出来る」

予想外の申し出に、少年は目を丸くした。

穂積の提案は願ってもいないものだ。

彼の言う千影の調べられない範囲とは、学院内部のこと。

潜入している身としては完全に調べられないとは言えないが、生徒間に馴染めていない自分よりも、確実に生徒会役員の方が情報を集められるはず。

光には教えられない情報も、千影にならば流してくれるかもしれない。

だが、提案に飛びつくには足りないものがあった。

「お前が売人じゃないという保障はない」

この一点に尽きる。

穂積から麻薬の気配は窺えないが、付属する生徒会内には仁志がいた。

仁志の潔白を証明しようと、日々城下町を奔走する現在、まだ彼の嫌疑が明らかになっていない段階で、生徒会と協力関係を結ぶわけにはいかないのだ。

反論の余地はないのか、穂積は少しだけ秀麗な美貌を難しくさせた。

僅かな間、思案する素振り。

千影が愕然とするのは、次のときである。


「その通りだな。……なら、どうすれば信じる?」


足場が、崩された。

ひゅっと空を切って落下する心。

奈落に呑み込まれる。

手の先、足の先、頬、全身から血の気が引いて行くのが分かった。


――どうすれば信じる?


頭の中で反響する問いかけ。

穂積の疑問に、何らおかしなところはない。

お前を疑っているのだと言ったのだから、返されるべくして返された言葉だ。

なのに。

体が動かない。

呼吸が出来ない。

吹き荒ぶ風が、空虚な場所を通り行った。

「おい、どうした」

彫像のように硬直した少年に異変を察したのか、穂積が顔を覗き込む。




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