どういうことだ。

何故、穂積たちがあの少年を捕まえる。

浮かんだ疑問は、己の頭脳によってすぐに答えを得た。

穂積たちは、学院で流行しているドラッグについて、独自に調査を進めているに違いない。

七月の時点で生徒会役員ではない一般生徒の光は、インサニティに関する情報を規制された。

以後、学院側がどのように動いているかを知る手段はなかったが、てっきり警察に連絡をして終わりだと思っていたのだが。

とんだ思い違いをしていた。

穂積たちは、自ら動いていたのだ。

インサニティの売人は、学院内に潜伏している可能性が高いと言うのに。

しかも、有力候補には生徒会役員の仁志が挙がっている。

碌鳴での穂積たちを鑑みれば、悪戯に騒ぎを大きくするとも思えない。

恐らく生徒会の内々だけで調査を行っているはず。

万が一、何か情報が出てきたとして、学院内部で隠蔽されてしまう危険もあった。

すぅっと眇めた茶色の虹彩で、千影は言った。

「こちらに引き渡せ」

あの少年は小売業者からインサニティを購入していたに過ぎないが、彼らの元に置いておくことは出来ない。

極めて低いが、新たな情報が得られないとも限らないのだ。

鋭く瞬く輝きは、和やかな店内に張り詰めた緊張感をもたらした。

が。

「ふっ……はは」
「は?」

鼻で笑ったかと思うや、穂積は愉快そうにクスクスと頬を緩めるではないか。

今の流れのどこに、笑いポイントがあったのかさっぱり分からない。

困惑する千影に構わず、男は尚も笑い続ける。

ちょうどやって来たウェイターが、丁寧な動きでテーブルにグラスを置き、一礼と共に戻って行く頃になって、ようやく収まったくらいだ。

ここまで笑われる心当たりなどない少年は、憮然とした顔でストローを銜えた。

爽やかなレモンの香りと、冷たい紅茶は文句なしだったが、眉間のシワは消えない。

「……なんだよ」
「いや、悪かった。意外と素直だと思って」
「分かるように説明しろよ」

失礼な奴だと不満も露に言えば、穂積は口端を持ち上げた。

「やはりお前は、ドラッグについて追っているのか。あの男は大方売人候補、若しくは購入者……か」

やられた。

マナーも何もなく零した舌打ちは、穂積の推察が正解であると教えているようなものだったが、ここまで読まれているのなら今更だ。

まんまと引っかかってしまった自分が情けなくも腹立たしい。




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