「で?嫌がる俺を、ここまで連れて来た理由は?」
「最終的には大人しく着いて来ただろう」
「それは会……」
「かい?」

会長が似非紳士顔で笑うから、呆気に取られたんだ。

何て、今の自分が言えようか。

「か…い……邂逅に驚いたからで……」
「お前、話し言葉でその単語を使うのか?」

怪訝そうな視線に晒されるが、千影とて苦しいのだ。

あぁ、やり難い。

何事か言い返そうと思えば、光と同じ素の反応が出てきてしまう。

顔を顰めてふいと目を逸らす。

「俺のことはどうでもいい、本題は何なのかって聞いてる」

言わないなら帰るぞ、と雰囲気で伝えれば、ようやく言う気になったのか、穂積は表情を改めた。

放たれた台詞は、的確。

「なぜ、アイツを追っていた」
「っ……」

注がれる凛とした双眸の光り。

こちらとのやり取りを楽しんでいた、先ほどまでの空気を覆すほどに、射抜く眼は強い。

対する千影の頭は、高速稼動を始めた。

穂積の言う「アイツ」。

まず間違いなく、自分が追っていた薬物購入者の少年のことだろう。

どうして穂積は、千影が少年を追いかけていたと分かったのか。

ぶつかったときに言った内容は、確か「急いでいた」だけだったはずだ。

猛スピードで走って来ただけで、誰かを追走していたと察した根拠は何だ。

行き着いた一つの仮定に、ハッとした。

まさか。

穂積は知っている?

あの少年が、誰かに追いかけられる理由を持っていると。

「最近、この街でドラッグが流行っているらしいな」
「……」

震えそうになる肩を、寸前で留める。

やはり。

穂積は知っているのだ。

逃げた少年がドラッグと関わりを持っていたことを。

ポーカーフェイスで無言を通せたのは、ここまでだった。

「あの男は、俺たちが捕まえた」
「なっ……!」

予想だにしない発言に、千影は向かいの存在を凝視した。




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