邂逅は熱を与える。




嫌だ、嫌だと思っていることほど、現実に起こるものである。

真夏には珍しく暑さが和らいだ日だった。

リストの残り半分の調査にと、城下町を回っていた千影は、ピタリとその足を止めた。

木崎と別行動を取り標的の姿を確認次第、連絡を入れる手はずになっていて、まだ求める人物を見つけてはいなかった。

千影が変わりに見つけたのは……いや、「見つけた」では語弊がある。

「見つけられた」のは、目下頭痛の種。

後ろめたさを抱かせる男。

高い位置にある黒曜石を思わせる瞳と、ばっちり視線が交わってしまったとは、何て災難。

なんでこんなところにいるんだ!

突然背後から手首を捕まえられ、驚きで振り返った先にいたのは、穂積 真昼だった。

心臓が飛び跳ねて、地面に激突するほどの衝撃に、ダッと冷や汗が吹き上がる。

「あ、の……なんですかっ?」

強引な手段に出た男を、千影は引きつった顔で凝視した。

端整な面からは彼の思惑を読むことも出来ない。

再びまみえてしまっただけでも驚愕なのに、いきなり腕を掴まれるなんて。

以前よりもずっと強い拘束は、振り払おうとするも外れる気配もない。

「離して下さいっ、いきなり……」
「ちかげ」

不意に名を呼ばれて、息が止まった。

騒がしかった鼓動さえも、暫時動きを止めた錯覚に陥る。

今、彼は何と言った?

信じられぬ心持になる理由は分からない。

名前を教えたのは、自分だ。

穂積がそれを口にすることに、何ら不思議な点はないのだ。

それなのに。

千影のブラウンの瞳は、じわりじわりと広がって行く。

落雷に打たれたかのような表情で、ただ視線を注ぐ少年に、穂積はにっこりと笑った。

学院で見たものよりも、ずっと上質の紳士笑顔。

作られた仮面と知っているにも関わらず、千影は瞬間的に見惚れてしまった。

生じた隙を見逃してくれる相手ではないことも、知っていたと言うのに。

「少し、お聞きしたいことがあるのですが、お時間よろしいですか?」

笑顔に見合った完璧な所作で、彼は千影の背を優しく促した。




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