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半ば本気で言う光に、仁志は周囲をチラリと見やる。
さっと頬を染めながらそらされる顔や、上がる男ながら高い歓声。
ブリーチの髪をガシガシとかき回すと、教祖様は心底うんざりと言った風に眉間にシワを刻んだ。
「俺が宗教なんてやるか、アホ」
「じゃあ、なんでみんなお前にキャーキャー言ってんだよ」
「顔じゃねぇの」
「顔……」
こいつ、自分で自分の顔がいいとのたまいやがった。
事実彼の顔は素晴らしいが、もう少し謙遜とかはないのだろうか。
思っていることがすべてオーラに滲んでいたのか、仁志は。
「自信過剰なわけじゃねぇからな」
「いや、まぁ確かにカッコイイとは思うけどさ」
「……なら、何が納得いかねぇんだよ」
不満そうな表情。
ただでさえ怜悧な瞳なのだから、不用意にヘソを曲げないで欲しい。
素直に怖い。
感情の起伏が激しい相手の様子を伺いながら、光は仁志の目がなくなるや、再開された周囲の視線攻撃に身を竦めつつ口を開く。
「だって、男だろ。美女とか美少女とかなら、俺が恨まれる理由も理解できるけどさ……何でみんなお前見て顔を赤くしてんだよ」
「あ……」
教室に入ってから抱いていた最大の謎。
最初は仁志が教祖として奉られているから『あんな崇高な方の側に、俗物なんてっ!』と悪意を注がれたのかと思ったが、そうではない。
ビジュアル第一の碌鳴ルールで、地味なヤツが美形に近付くのはご法度なのだろうか、とも考えられるが、何やら惜しい気がする。
首を傾げて不思議そうにする光を、仁志はまじまじと見つめた。
「そうか、お前外から来たんだもんな。忘れてたわ」
「なに?」
「あーどうすっかな……」
「なんなんだよ」
言いよどむ相手に追求すると、彼は「よしっ」と覚悟を決めた。
光の首に腕を回し引き寄せると、耳元に口を近づける。
するとやっぱり教室一杯に溢れた絶叫。
よくよく見れば、扉から別のクラスの生徒らしき人間まで顔を出している。
「なにアイツっ!」
「仁志様から離れろっ根暗っっ!」
「そんなヤツじゃなくて、僕を抱き寄せて下さい〜っ」
そろそろ罵声に対する免疫が出来てきた光は、お決まりのパターン化した騒ぎを意識から追い出すと、至近距離にある仁志の眼を見た。
「で、この騒ぎの原因って?」
「いいか、この学院は変なんだ」
「それは知ってる」
「違う、お前は分かってねぇ」
ひそひそと囁くような仁志の声。
鼓膜を振るわせる低音が、言葉を紡ぐ。
「碌鳴は場所は違うが、幼稚舎から大学院までの一貫校で、ガキの頃からずっと野郎に囲まれて過ごす奴が大半なんだ」
「それも知ってる」
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