確信と謎。




SIDE:仁志

蛍光灯の灯った室内に、仁志は息苦しさを覚えた。

窓のない無機質な壁は、狭い部屋を一層窮屈に感じさせ、精神的な圧迫感を与える。

もの珍しい気持ちは入室した瞬間に消え失せて、座り心地の悪いパイプ椅子に気詰まりと一緒に腰掛けるばかりだ。

どれくらいの時間待たされているのか。

実際にはさほど時計の針は進んでいないだろうに、仁志にとってはやけに長い待ち時間。

五感が受け取るすべては、今自分がいる場所がどういったところであるのかを、如実に物語っていた。

そのとき、ガチャリと扉を開ける音がして、顔を上げた。

透明なアクリル板を隔てた向こう側に、制服姿の男を背後に従えた人物が現れる。

腰に巻かれた縄はそのままで、相手はこちらの対面に腰を下ろした。

「急に悪かったな。俺のこと、覚えてるか―――後藤」

面会室。

仁志が訪れた場所は、あの不良グループが存在した街を管轄とする留置所であった。

まだ取り調べが終了していない段階では、限られた人間しか接触することの出来ないはずではあったが、仁志はそのルールを捻じ曲げられる立場にあった。

一枚向こうの罪人は、憔悴の色が濃い顔を怪訝そうに歪めると、目を細めて注意深く仁志を窺った。

一大勢力のヘッドとして街に君臨していた頃とはかけ離れた様子に、内心で覚えた衝撃はどうにか表に出さずに堪える。

やがてゆっくりと口を開いた後藤は、思い出したように目を見張った。

「お前……アキか?」
「あぁ、ゴールデンウィークのときは世話になったな」
「なんでお前がここにいる」

当然の質問に、仁志はどう切り出すべきか考えを巡らせ。

直球を選んだ。

言葉を繕ったところで、自分がここにいる不信感は払拭出来ない。

後藤のチームに身を寄せたのは五月の数日間だけで、彼とは交流らしい交流も持たなかったのだ。

オマケに、通常ならば面会が叶うはずもない現在。

警戒するなと言う方が難しい。

「ドラッグでパクられたって聞いた。詳しく話しを聞きたい」
「はっ!話すことなんざねぇよ。ゲロれることは、もうとっくにサツんとこで話して来たからな」

「何を今更」と後藤は嘲笑ったが、それは嘘だと仁志には分かった。

今回の一件には、広域指定暴力団が関係している。

例え後藤が接触したのが末端の準構成員だとしても、こうして未だ留置所に留められているのならば、警察側にまだ何か情報を持っていると思われているからだ。

麻薬の売買では数年で刑務所から出て来れる。

暴力団関係の情報を警察に流したことが露見すれば、出所後に必ず報復を受けることになるだろう。




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