デジャヴュ。




SIDE:穂積

「着信来たから出たのに、いきなり切るなんて酷くない?穂積が根性曲がってるのは知ってるけどさ、だからって折り返しの連絡もないのはどうかと思うんだけど」
「……」
「僕からかけ直さなかったら、君絶対電話してくれなかったでしょ?若ボケするのは早すぎるよ。僕より誕生日遅いのに」
「……」
「会っても「さっきは悪かった」とかすらないしさぁ。よし!リピートアフターミーだよ穂積。「俺はなんて愚かだったんだ。お前という親友に自ら電話をかけておきながら、無言で切ってしまうだなんて暴挙、この先永遠にしないと誓うよ。お前も知っての通り、俺は傲慢で独りよがりのくせに不器用な男なんだ。頼む、見捨てないでくれ!この心からの謝罪を、どうか受け取ってほ……」
「首の骨をへし折るぞ」

合流してからこちら、心ここにあらずといった風情の穂積をいいことに、好き放題のたまう相方の顎をガシッと片手で掴んだ。

中性的なたおやかな美人顔に、容赦なく力を込めてやれば、途端に非難の声が上がった。

「いひゃいいひゃいっ!」
「なら自分が言うべき十四文字を、この状態で俺に聞かせろ」

定番の三文字或いは六文字でなく、十四文字。

その中身は「申し訳ございませんでした」だ。

日頃余計なことを言ってしまいがちな綾瀬だが、今は諌めてくれる歌音もいなければフォローの戦士・仁志もいないために、穂積の怒りを煽る煽る。

底冷えのする瞳と対照的に口元が作った紳士的な笑顔は、たまたま傍を通り過ぎたウェイターは元より、こちらのテーブルを興味津々に窺っていた他の客の頬を赤く染めさせた。

綾瀬にとっては、どうしてこの恐怖笑顔を見てときめくことが可能なのか、さっぱり理解が出来ない。

「むぉーひあへあいあへんへひは」
「生憎、理解出来る言語は限られている。しっかり発音しろ」

相手の底意地の悪い発言に、綾瀬はペシッと顎を捉える穂積の手を叩いた。

「もう痛いってば!すいませんでしたっ」

苦情に続けて謝罪を行った綾瀬の頬は、指の跡で薄っすら赤くなっている。

本気で痛めつけるつもりはなかったが、これくらいならば悪ふざけで許されるだろう。

恨みがましく上目で睨んで来る相手に、穂積は真実の笑みを零した。

満足そうで傲慢なそれは、作り笑いよりもよほど魅力的だった。

「聞こえてないと思ったか」
「でも呆けてたでしょ?何か別のことに意識が飛んでた」
「……碌鳴の生徒を見つけたが、逃げられた」
「えっ!?」

ずばり言い当てられたことには返さず、先ほど取り逃がした少年について言えば、対面の紅茶色の眼が驚きに見開いた。

身を乗り出すその表情は、いつもの好奇心とは異なり厳しいものだ。

すでに仕事に切り替わっている綾瀬と同様に、穂積も表情を正した。

「ドラッグとの関係が?」
「分からない。ただ、俺に見られては不味い状況であったのは、間違いないな」

向こうから自分を見つけられ、そうして逃走されたのだ。

怪しまない理由はない。




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